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2021年9月 8日 (水)

ESG投資が変える社会 ⑥

続き:

試金石としてのウイグル問題

 ところが、ESGの「S」をめぐって難問があらわれた。中国の新疆ウイグル自治区の人権問題である。ウイグル産の綿の不使用を宣言したアパレル企業が、逆に中国政府に批判され、中国での不買運動にさらされたのだ。

 なぜ人権重視の側に立つ企業が苦しむのか。ことの発端は2018年に国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」が公表した報告だった。それには、4ヵ国の100人以上の人から、新疆ウィグル自治区内の親戚や友人と連絡が取れないとの訴えがあったという。実際に「再教育」キャンプに収容された者の証言も掲載された。

 そこでは政治的な歌を歌うことや共産党大会のスピーチを学習することが強要され、毎晩、政府のラジオニュースを聞かされるといった思想教育がなされていたという。

 ウイグル地域はちゅうごくさんのめんの80%以上を産出し、紡績や服飾工場も集中していると言われる。ウイグル産の綿や糸でできた生地は世界中のアパレル工場で使われる。従って、大手のアパレル企業や小売業者は潜在的にウイグル人の人権侵害に関わる可能性がある。

 そのような背景から、持続可能な綿花生産を推進するNGOのベター・コットン・イニシアティブは2020年の報告書の中で、ウイグル地区でのすべての活動と事業関係の停止を提言した。ウイグル人の拘束や強制労働という情報があるが、中国政府の規制のために現地調査ができないからだという。同時期にアメリカのスポーツブランド・ナイキやスウェーデンのアパレル・H&Mなどが、ウイグル産の綿を使っていないことを表明した。ところが2021年3月になって中国の国営メディア等が批判を展開し、IT上で不買運動も呼びかけられた。

 もしこれがサプライチェーン上での一企業や工場での強制労働問題だったら、人権侵害に懸念を示し使用停止に踏み切るのは標準的な対応だ。本来、それが企業のレピュテーションを守り、長期的には企業価値につながるはずだった。だが今回はむしろ逆風にされされた。相手が一企業ではなく、中国政府だったからである。

 言い方を変えれば、これは単なる強制労働問題ではない。中国政府の目的は強制労働ではなく、統治政策の一環と理解すべきだろう。なにもウイグル人を搾取して儲けることが目的なのではなく、漢語や漢文化の浸透を図ることで共産党政権の統治を容易にしたいのである。それは中国の立場からすれば内政問題だが、日本人を含む西側諸国の現代の価値観から見れば、少数民族の固有の文化や自立心を奪う同化政策であり、極めて深刻な人権侵害ということになる。

 問題は、たとえそうだとしても企業や投資家が何かすべきなのか、ということである。「これは政治的な問題だ」という意見はあるだろう。相手国の政府が関与している以上、民間の企業や投資家が口を挟むことはできないという意見もあるかもしれない。

 しかし国連が2011年に公表した「ビジネスと人権に関する指導原則」の柱は、①人権を守る国家の義務、②人権を尊重する企業の責任、③救済の三つである。人権を守る第一義的な義務は当然ながら国家にあるが、各国の対応いかんにかかわらず、企業にも人権を尊重する責任があるというのである。中国という巨大な市場の利益を取るか、ESGの理念を取るか、ESG投資もそのスタンスが問われるのではないか。

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