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2021年10月 6日 (水)

人間と科学 第327回 植物と薬と人間(5) ③

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グリチルリチンは甘草の根など土に接する組織の周辺部に多く蓄積しており、そのため土からの外敵である微子物や虫などから身を守る防御的な役割を果たしている。それが人間にはたまたま甘く感じられ、薬としての肝機能改善作用や抗炎症作用を示したと考えられる。

 グリチルリチンは、医薬品だけでなく沢山の食品にも天然甘味料として含まれており、そのため多くの人が日々少しは口にしているはずである。

 しかし、この甘草の供給は、殆どが中国からの輸入に依存しており、最近の中国国内での需要の高まりや乱獲による砂漠化への危惧によって、輸出制限が始まっている。

 このように、甘草の供給不安が深刻化する中で、甘草からグリチルリチンを作る遺伝子を探し出し、バイオテクノロジーの力によって、甘草の有効成分を作る研究が行なわれている。また、数年前には甘草のドラフトゲノム配列を決定することにも成功し、この最も重要な生薬の全貌を明らかにする見通しが立ってきた。

 薬学を含めて生命科学の分野は、2000年以降大きく進展した。それは、この十数年で、高等生物である植物や人間が持っているすべての DNA 情報であるゲノム配列が次々と決定されたからである。クララや甘草のゲノム配列を決定することなど、斉藤が大学院生として研究を始めた1970年代には思いもよらなかった。

 生物学は、いわば無限の多様性を記述する自然史学(博物学)の時代から、ゲノム科学によって少なくとも有限個(数は万~10万単位と多いが)の遺伝子やタンパク質に還元して研究できる段階にきたのである。

 このゲノムには、生命をつかさどるすべての情報が刻まれている。それを知ることによって、植物や人間を含めた生命の営みを、根源的に理解できる糸口が得られるようになったのである。

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