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2021年10月14日 (木)

公正な医療アクセス阻むグローバル製薬企業 ⑤

続き:

◉ 埋まらない溝

 2020年以降、WTOでの議論は激しく対立し、平行線が続いてきた。対立の論点はいくつもある。グローバル製薬企業を有する米国やEUなどを中心とする途上国側の反論を紹介しよう。

 先ず、「知財はワクチンなどの製造の『壁』ではない」との主張がある。ワクチンにかかる特許を免除したとしても、製造能力や流通経路、原材料の調達、各国での認可など様々な別の課題があるため、生産量は拡大できないというものだ。これに対し南アフリカやインドは、複数の国で特許が障害となり自国でコロナ関連製品の製造や流通が阻まれている事例を詳細に提出している。

 また、知財を免除すればただちに多くの国で製品が増産できるわけではないことは、途上国側も承知している。しかし潜在的な製造能力を持つ国はインド、ブラジルなど複数あり、知財免除とともにこれらの国々へ技術支援やインフラ支援を今から着手することは、次なるパンデミックへの対応としても必要。

 また、「知的財産権はイノベーションの原動力であり、免除されれば研究開発の意欲が削がれる」という意見も根強い。つまり投資やそこから生まれる利益こそが開発の源泉だ、というものである。これは、今まで強化され続けてきた知財システムの中では通用する理論だろう。

 しかし、そもそもコロナ感染拡大以前から、製薬企業は政府・国際機関から巨額の公的資金を受けて研究開発を進めている。コロナ感染時はさらにその金額は膨大なものとなった。

 例えば、米国モデルナのワクチンの中核となる新技術は、米国政府の資金提供によって米国国立衛生研究所が開発したものだ。その上で、モデルナは研究支援とワクチンの先行契約のため Total 約25億ドルを米国政府から受け取っている。またファイザーは、ワクチン開発のためにドイツ政府から4億4300万ドルの資金提供を受けたが、その後、米国とEUから Total 60億ドルで購入契約を交わしている。

 これら企業を含め、六社のワクチン候補の研究開発、臨床試験、製造には、Total 100億ドル以上の公的資金が投じられている。

 日本の我々の税金も、国際機関を通じてこれら製薬企業へ拠出されている。アストロゼネカ社は「新型コロナワクチンの開発費は、政府と国際機関による資金援助で相殺できる」と公言するなど、十分すぎる利益を製薬企業は得ているのだ。さらに、途上国を含む多くの人々が、ワクチンの治験に積極的に協力・参加するなど文字通り献身的に貢献しているのだ。

 つまり、開発されたワクチンは公共的な性格を十分に持つもので、企業だけが独占的に管理し、情報開示も不十分であるのは不当なことだ。同時に感染制御にも逆効果だというのが途上国側の主張だ。

 さらに先進国側は、「企業はすでにワクチンのライセンス契約を各国の製造主体と行なっており、増産はそれら『企業の自発性』に委ねるべきである」「WTOでの強制実施権など従来の措置を使えば十分だ」と主張している。しかしライセンス契約の例は限定され、企業主導の契約の透明性は確保されていない。強制実施権も、制度はあるものの手続面での途上国の負担は大で、先進国からの「制裁」を恐れ活用できない途上国も多い。

 他にも多くの論点があるが、反対する国には「知的財産権は手放さない」という頑固な態度が透けて見える。パンデミックという異例の事態に、すでに十分な利益を得ているにもかかわらず、それでもなお利益を追求しようとする製薬企業と先進国政府に対して、途上国は「Corporate Greed(企業の強欲)」と強く非難している。

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