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2021年10月25日 (月)

グローバル・タックス、GBI、世界政府 ②

続き:

人新世=人類生存危機の時代が意味すること

 人新世が人類の生存危機の時代であることの象徴は、言うまでもなく深刻化する気候変動だ。

 スプラットとダンロップ(2019)によると、地球の平均気温は、2030年に1.6℃、2050年には3℃上昇する。1.5℃の上昇で南極の西極氷床が融解して海面上昇を引き起こし、毎年夏には北極の氷が完全に融解してそれがさらに地球の平均気温を上昇させる(氷面より海水面は太陽熱を吸収するので)。また、2℃の気温上昇でもグリーンランドの氷床が融解して海面が上昇し、シベリアの永久凍土の融解によって二酸化炭素の20倍以上の温室効果を持つメタンが放出され、アマゾンで大規模な干ばつと森林の立ち枯れが起き、二酸化炭素が大量に放出されて温暖化が加速する。このように、今後は負の連鎖が連続して起こり、それらが次々と負の連鎖を誘発して「灼熱地球(Hothouse Earth)」状態になり、取り返しのつかないポイントに至ることになると論じている。

 平均気温2℃の上昇で、陸地の35%、世界人口の55%が生存不可能なレベルの熱波に20日以上さらされ、熱波や海面上昇の影響などで10億人以上が現在の居住地に住めなくなり、穀物の生産が1/5まで落ち込み、世界的な食料不足に陥るなど壊滅的な状況になる。それ以上の温度上昇でのシナリオはモデル化ができないが、人類の終焉の可能性が高いと彼らは論じる。ということは、彼らの予測どおりに2050年に3℃の気温上昇が起これば、それは人類の生存危機ということになる。

 要するに、地球平均気温の上昇は、1.5℃までで抑えられなければならないのである。しかし、この8月、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2021年から2040年に1.5℃を突破すると発表した(IPCC 2021)。パリ協定は、21 c後半までに二酸化炭素排出をゼロにすることを目指しているが、それでは遅すぎることは明白だ。斎藤幸平が指摘するように経済成長などと悠長なことを言っている場合ではない。今すぐ世界的に二酸化炭素排出をゼロにするラディカルな変化が必要なのである。

 人類の生存危機を引き起こす要因は気候変動だけではない。その他にも、人為的病原菌による感染症の世界的蔓延や核戦争の可能性などが論じられている。バイオテクノロジーの急速な発展とその情報の普及により、遺伝子組み換えウィルスの情報はいとも簡単に手に入り、博士課程の学生のレベルであれば、容易に人為的ウィルスを作ることができるといわれている。もし感染率や致死率の高いウィルスが人為的に作られ、世界にばら撒かれたら、何が起こるかは火を見るよりも明らかである。

 また、今さら核兵器の使用は考えられないと思われがちだが、サイバー攻撃で核兵器のシステムがハッキングされ、発射ボタンを作動させることは理論的に可能である。これは原子力発電所にも当てはまる。原発の電源システムが遮断されれば何が起こるか、私たちはすでに知っている。

 最後に、生存危機は先の話でなく、すでに部分的に始まっていることも確認しておきたい。飢餓や栄養失調などで、6秒に1人の子どもが死んでいる。岡野内正(2021)は、SDGsが開始された2015年以来5年間で、非感染症疾患による70歳以下の死亡者が3000万人、5歳以下の乳幼児死亡者が940万人、妊産婦死亡者が130万人の合計4000万人になること、SDGsの実績が同様に推移するならば、2020年から30年までにさらに4000万人の死者と40億人の被害者を出すと論じている。

 これらの脅威について早急に抜本的な対策が取られなければ、近い将来、生存危機に陥る蓋然性は十分に高い。ワーカーズ・コープなどローカルな脱成長コミュニズムの諸プロジェクトはもちろん重要であるが、それだけでは危機は止められない。気候変動も、遺伝子組み換えウィルスも、核兵器や原発に対するサイバー攻撃も、SDGsの未達成も、すべてグローバルな脅威であるから、それに対応できるグローバルな政策と制度が不可欠なのだ。

 斎藤幸平は、政策や制度による解決を政治主義として批判する。しかし、危機の時代には資本主義の根本的な変革に加えて、政策や制度の構築も必要なのである。しかも、それらを生存危機に陥る前に整備しなければならない。

 それでは、どのような政策と制度を備えるべきなのか。その議論の前に、なぜこのような事態に陥ってしまったのか、つまり危機の原因について考察しておこう。

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