人間と科学 第327回 植物と薬と人間(5) ②
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一方、このマトリンを含む生薬「苦参」の基原植物はクララというマメ科植物であるが、ではどのようにクララはマトリンを作るのかという植物生化学研究は、津田教授、奥田教授の弟子である千葉大学の村越勇教授によって進められた。
やや前置きが長くなったが、実は、この奥田教授は私(斉藤)の大学院時代の恩師および上司で、村越教授も斉藤の千葉大学赴任後の恩師および上司であり、さらに斉藤は図らずも村越教授の後任として千葉大学の研究室を引き継いだ。斉藤もこの日本の薬学のルーツに遡るテーマであるマトリンなどのアルカロイド生合成について、分子生物学的研究から最近はクララのゲノム解読を進めている。このように、132年前に長井長義の最初の研究以来の日本の薬学における中心テーマの末端に関わり、ゲノム科学的なアプローチで少しでも新しい展開に貢献できたことは、長い歴史の中での諸先達の先生方の苦労にも思いを馳せると大きな喜びを感じる。
実は、これらのマトリンとクララに関する長い宿題研究遂行を励ますべく、遠藤教三画伯により昭和13~14(1938~1939)年に制作された「クララの花」の日本画は、近藤平三郎教授室をへて津田・奥田教授室へ、さらに千葉大学の村越教授、斉藤の教授室をへて、現在は斉藤の後任である山崎真巳教授室に受け継がれている。このように、この日本画は80年以上にわたりマトリンとクララ研究に関わる六代の教授を静かに見守って日々励ましているのである。
マメ科植物に由来する苦い根の生薬の代表である「苦参」に対して、同じくマメ科植物に由来しながら甘い根の代表的な生薬が「甘草」である。甘い草と書く「甘草」という名前の生薬を聞いたことがある方も多いと思う。甘草はマメ科の薬用植物であるが、文字通りその根は非常に強い甘味を呈する生薬として使われている。
漢方薬は、複数の生薬を組み合わせて配合するが、甘草はそのような漢方処方の7割に配合されており最も汎用されている。その強い甘味は、主成分である「グリチルリチン」という砂糖の150倍も甘い低カロリー甘味成分によるものである。
実は、グリチルリチンのような、一般にサポニンと呼ばれる化学成分には、大量に摂取すると、細胞に障害を与える作用がある。
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