公正な医療アクセス阻むグローバル製薬企業 ⑧
続き:
◉ グローバルな公共財の新たな倫理とルールを
経験したこともないパンデミックに際して、全ての人々の健康と安全を確保するために、何がとわれているのか。これまでも製薬業界の高利益体質は指摘されてきたが、多額の公的資金を得た上に莫大な利益を手に入れ、さらに生産量や配分先など契約に関する事項の決定権も手にする――この独占の仕組みを維持できなければ、ワクチンや治療薬を開発できないのだとしたら、それはパンデミック時代のシステムとして不適切であり不公正だ。実際、既存のやり方ではすさまじい格差が生じているという現実を、私たちは世界同時的に経験している。
いま必要なのは、「公共財」としてのワクチンや医療アクセスについて、知財だけに限らず、生産体制や技術支援、COVAXのような国際的な枠組みをより大胆に進めるための国際社会の政治判断だ。製薬企業は猛反発するだろうが、異次元の危機には異次元の未来志向の対応が必要であり、これまでのやり方に拘泥していては活路は開かれない。
新たなメカニズムの鍵となるのは、「公的資金」と「技術の共有(オープンソース化)」となるだろう。例えば米国の研究者や市民団体の間では、ワクチンや検査キットなど幅広い製品・方法を「共有財」として生産・管理するため、緊急時には政府が製薬企業に資金を拠出し、知的財産権の免除や情報共有を促す仕組みが議論されている。企業に公的資金を拠出する条件として、そのような規定にあらかじめ同意させるという案もある。
そもそも、今回脚光を浴びることになったmRNAワクチンは、ハンガリー出身のカタリン・カリコ博士による40年以上の研究成果のおかげだ。米国の大学でするも日の目を見ず、研究資金も尽きドイツのビオンテック社に移った彼女の研究がコロナ禍で注目され、ファイザーやモデルナがmRNAワクチンとして製品化したのだ。彼女の研究にさまざまな形で注がれた各国政府の公的資金・民間資金や、治験参加者(途上国の市民を含む)の努力があったからこそ、私たちは現在のワクチンを手にしている。ここに発想を得るならば、時代や国境を越え知見や情報を共有化すればするほど、新たに革新的な製品を生み出すことができる――製薬企業の主張と真逆のこの論理を、私たちは追求できないだろうか。
グローバル資本主義のもと巨大な力を持つ企業への規制と、そのビジネスモデルの転換が、いまほど必要とされている時代はない。直近では、グローバル企業への課税やGAFA規制、石炭火力発電産業からの投資撤退、持続可能な農業への転換など、「気候危機」「食料の危機」への対応を国際社会は少しずつ形にしている。それら危機と並ぶ「公衆衛生の危機」で求められるのは、「すべての人が安全にならなければ、誰一人として安全ではない」という原則だ。その実現に向け、大きな一歩を踏み出す必要がある。
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