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2021年10月29日 (金)

グローバル・タックス、GBI、世界政府 ⑥

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世界政府     <1>

 そして、グローバルな制度である。ここでは世界政府を検討する(以下、上村 2019、2021)。世界政府と一口に言っても、様々な構想があり、一括りに論じるのはむずかしい。その詳細は上村(2019)に譲ることにして、ここでは以下のように定義する。世界政府とは地球規模課題を解決し、人類の生存危機を回避することを目的とした超国家機関で、3本柱から構成される。まず地球規模課題解決や人類の生存のための政策を議論し、法的拘束力を持った決議を行なう立法府としての世界議会、次にその議決事項を実施する各国の主権を部分的に超越した行政府としての世界政府、そしてこれらを法的に保証する世界憲法、ならびに司法府としての世界司法裁判所である。

 世界政府が必要な理由は、第一に各国政府が地球益よりも国益を優先している現状があるからでもある。例えば自国の経済や産業を優先し、十分な炭酸ガス削減策を取らない、軍需産業の発展のために、武器の開発・製造・輸出を続けるなどの例を挙げる。

 次に、グローバルなレベルでの意思決定がますます人々の生活、ひいては生存に影響を与えるようになったにもかかわらず、その決定に人々が参加できないからである。たとえば気候危機を止めようと思えば、大多数の人々のライフスタイルや価値観の転換、協力が必要になるが、そのためには彼らがオーナーシップお持つことが必須。そして、それは彼らが政策形成や意思決定にたとえ間接的にでも参加することができて初めて醸成されると思われる。

 それでは、なぜ世界政府は主権国家体制よりも優位性を持つか。まず、地球規模課題の多くは基本的に集合行為問題だ。それを解決するには、共通の問題の解決を図り、コストを公正分担させる何らかの権威が必要だから。次に、主権国家は外部の脅威を利用して国内における抑圧や権威体制を正当化し、専制的になりがちなのに対して、世界政府にはそのような外部の脅威が存在しないため、原理的に専制を避けうるからだ。

 第三に、核戦争の恐怖は、主権国家が核兵器を持ち続ける限り続くからである。

 最後に、前述のGBIの財源となる人類遺産持株会社などは、世界政府のようなグローバルな権威があってこそ初めて創設が可能となると思われるから。その意味では、主権国家を越える権力を持つ超国家機関を作って主権国家の専制を斥け、集合行為問題を解決、核兵器の廃絶を促進し、人類遺産持株会社のような地球規模課題解決のために必要な組織を設立するのが最も合理的かつ効果的と言えるだろう。

 勿論、この構想は完全なものではない、さまざまな観点から批判がされている。ここでは大きく、①専制や大国による支配と民主主義欠損の可能性、②外部を持たないことによる弊害、③実現性の欠如について、簡潔に説明する(上村 2019、2021)。

 最初の点について、カントは、世界政府ができると、一大強国のために、諸国家が溶解するし、法律は統治範囲が拡大するにつれて威力を失うから、結果的に「魂の無い専制政治」に陥ると論じる。井上達夫も、たとえ民主的な制度を作っても、邪悪な、または無能な主体が権力を握った場合、専制の可能性があるとともに、政府と市民が乖離し、政府が遠すぎて市民の声が届かないという民主主義の欠損の問題が起こるとの批判を行なっている。

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