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2021年10月21日 (木)

世に放たれたゲノム編集野菜 ④

続き:

■オフターゲット

 ゲノム編集技術にかかわる最も大きな問題は、標的外遺伝子の破壊(オフターゲット)である。その原因としては次の四つがある。

①類似塩基配列の存在

 ゲノム編集は自然の中で起きる突然変異と同じだという主張があるが、これは大きな間違い。生物のゲノムは膨大な数の塩基からできている。例えばヒトゲノムは31億対の塩基配列で出来ている。大豆は11億対、トマトは9億対の塩基が連なっている。その中には20塩基程度が同じ配列の遺伝子が通常数十個はある。ゲノム編集の際、ガイドRNAは20塩基が同じであればこれらを同時に破壊する。これをオフターゲット(標的外遺伝子の破壊)という。自然突然変異はランダムであり、同じ塩基配列を持つ遺伝子を同時に壊すことはない。

②ガイドRNAとDNAの対合ミス

 DNAはAとT、GとCが対を作って二本鎖を形成している。そこへ塩基配列が類似のガイドRNAが割り込んで結合し、ハサミの役割をするCas9がその両端を切り取る。DNAの塩基同士は厳密にAとT、GとCが結合するが、RNAはTに類似のU(ウリジン)という塩基を持ち、塩基対形成の厳密さに欠けるため、20塩基の2、3個の塩基が違っても対合にミスマッチ現象が起こり、標的遺伝子とは若干異なる配列の遺伝子もCas9は切断する。

③ハサミの数が多い

 通常、ゲノム編集の紹介記事では標的遺伝子を切断するハサミ(Cas9)は1個しか書かれない。これは事実と違う。実際には標的遺伝子1個、すなわち細胞1個当たりに投入するCas9とガイドRNAの数は通常数百万個から数千万個、場合によっては細胞1個に億単位のハサミを投入する。理由は単純でゲノム編集も化学反応であり、反応効率は基質(標的遺伝子の数とハサミの数)の濃度に依存する。

 ミサイルのように標的に向かって誘導するわけではなく、反応基質同士が偶然近づけば反応が起こる。結果、標的外遺伝子も破壊するのは必然である。

④遺伝子の複雑な構造

 遺伝子はタンパク質の設計図でDNAの塩基配列がタンパク質のアミノ酸配列に翻訳される。細菌などの原核生物は1個の遺伝子が1個のタンパク質に翻訳されるが、真核生物(核のある細胞)では1個の遺伝子から複数のタンパク質が作られる。1個の遺伝子はタンパク質のアミノ酸配列に変換されるエキソンという塩基配列とアミノ酸配列に翻訳されないイントロンという塩基配列が交互に連結した入れ子状態でできている。イントロンはタンパク質に翻訳されない代わりに遺伝子の発現調節などに関与しているが、その機能はまだ完全には分かっていない。

 タンパク質合成の際には最初にDNAの塩基配列と同じ配列のプレ・メッセンジャーRNAが合成され、次にエキソンとイントロンを切断し、必要なタンパク質に対応するエキソン同士をつなげたメッセンジャーRNAを作るスプライシングという反応が起こる。スプライシングは1個の遺伝子から複数のタンパク質に対応するメッセンジャーRNAを作る反応なのだ。

 その際、同じエキソンを持つ異なるメッセンジャーRNAができる場合がある。ゲノム編集の際に特定の遺伝子から何個の如何なるタンパク質が作られるかを厳密に解明しなければ、同じエキソンを持つ異なるメッセンジャーRNAが作る複数のタンパク質を同時に破壊するオフターゲットが起こる。

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