« Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ② | トップページ | Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ④ »

2021年11月10日 (水)

Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ③

続き:

3. 脳の運動制御システムからみた「制御」

 咀嚼運動は、運動開始や運動制御の一部が随意的であるが、大部分は自動的に遂行される運動で、呼吸や歩行と同様な半自動調節性運動である。この半自動調節性運動の制御は、脳幹に存在する中枢性パターン発生器 (Central Pattern Generator) により無意識下で行われるが、随意的な咀嚼運動制御において大脳皮質がどのような役割を果たしているかは、いまだ不明な点も多い。

 ガム咀嚼やクレンチング時のfMRI研究は散見され、脳活動部位は課題によって差はある、しかし、一次感覚運動野の顔面口腔領域、補足運動野、島皮質、視床、小脳等の賦活が報告されている。そして、これらの部位が活動する理由を、口腔からの感覚情報の処理を行う領域であること、また手や足等の他の体部位の自発運動時に活動する領域と同様であること等の推察が行なわれているが、より詳細な機能的意味の観点から、咀嚼時に活動する脳領域の機能的意味に着目した研究を紹介したい。

 四肢動物において、自身の子どもを運ぶ、あるいは食物を口へ運ぶ動作を行う際に、手と口の両方が用いられるように、両者はものを’つかむ’という観点では、類似した機能を有する器官だと考えられている。ヒトの行動学実験においても、手で物体をつかむ動作と同時に口を開く動作を行う際、つかむ物体が大きいほど、開口量も大きくなることが示され、また、口で物体をつかむ動作と同時に手を開く動作を行う際、逆もまた成り立つことが示されたことから、両者は運動学的に相同性を有することが明らかとなっている。

 ’つかむ’ 動作を行う際の手の握り方は、進化の過程において種々の様式を獲得してきた。ヒトにおいては、親指と人差し指で繊細につまむ precision grip と、掌全体で力強く握る power grip の二つに大別され、両者の担う末梢機能は異なると考えられる。また、fMRIを用いた過去の研究より、power grip を用いて力強く握る運動時は、運動の実行を司る一次感覚運動野 (M1S1) および小脳における脳賦活を認め、precision grip を用いて繊細につまむ運動時は、繊細な運動コントロールを司る帯状皮質運動野吻側部 (CMAr)、上前頭回における高次な運動関連領域、および大脳基底核における賦活を認めることから、運動時に機能する脳の領域も両者で異なることが示されている。さらに、power grip 時は発揮する力が「強い」ほど M1S1 および小脳における脳賦活が強くなり、逆に precision grip 時は発揮する力が「弱い」ほど CMAr における脳賦活が強くなることが示されていることから、発揮した力に応じた脳賦活パターンもまた、二つの手の握り方で異なり、両者は中枢における運動制御機構も異なることが示唆されている。

« Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ② | トップページ | Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ④ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事