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2021年11月 4日 (木)

人間と科学 第328回 植物と薬と人間(6)―③

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 この新しい育種方法では、遺伝子組換えのように外来遺伝子は導入されず、必要な箇所にだけ突然変異を引き起こすので、得られた品種は従来育種で得られた品種と結果的に区別できない。むしろ、基本的には狙った箇所以外には変異は起きないので、ゲノム上の多くの箇所に望まない変異が生じうる従来育種よりも、安全で優れた育種方法と言える。

 従来育種が、遠くからダーツの矢を沢山投げてダーツボードを傷つけながら的を射る状況に対して、ゲノム編集はダーツボードまで歩いて行って正確に的の中心だけを射る、というように例えることができる。

 昨年のノーベル化学賞は、このゲノム編集技術を開発した二人の女性研究者に授与された。今年になり日本でも、この技術によって、ストレス緩和効果や血圧上昇抑制効果が期待できるγ-アミノ酪酸(GABA)を高蓄積するトマトが実用化された。

 筆者(斉藤)が属する理学研究所の環境資源科学研究センターでは、植物科学、ケミカルバイオロジー、触媒化学、バイオマス工学などの異分野の研究を融合して「環境資源科学」という新しい分野を確立しながら、SDGsのうち7項目(前述の植物が貢献できる5項目に加え、⑫つくる責任つかう責任、⑭海の豊かさを守ろう)の実現に貢献するべく、先端的な研究開発を行っている。

 すでに実質的な貢献につながるいくつかの研究成果が挙がりつつある。また、このSDGsへの貢献に向けた若手研究者育成支援などのために、一般市民や企業も含め広く寄付金を募っている(http://www.csrs.riken.jp/jp/kifukin/index.html)。この慈善的な寄付金事業に、皆様からの温かいご支援・ご協力をお願い申し上げたい。

 これまで述べたように、植物は「宇宙船地球号」に同乗している人類の生存を支え、未来の「宇宙船地球号」の浮き沈みをも決定する。私たちは、この植物のことをもっとよく理解し、上手に利用しながら、植物と人間の関係も新しい段階に進まなければならない。

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