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2021年11月 8日 (月)

Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法(fMRI)、視線計測法(eye-tracking)を用いた新視点~ ①

宮本(川元)順 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野非常勤講師)さん・吉澤英之(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野特任助教授)さん・森山啓司(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野教授)さんの共同執筆による小論文です。 コピーペー:

1. はじめに

 咀嚼は、複数の顎顔面口腔領域の器官が関与している、複雑な協調運動である。このような巧妙な運動は、顎顔面口腔領域全体に豊富に分布する機械・温度受容器、ならびに味覚をはじめとする化学受容器等の感覚受容器から生じる様々な入力が、咀嚼運動に一致して大量に脳に送り込まれ、主に脳の機能によって制御や調整がなされている。例えば、新鮮なリンゴを咬むと、顎運動の最適な力を制御し、歯根膜から生じる感覚情報を通してそのサクサクした食感を知覚し、甘みを堪能することができる。即ち、これまでの多くの動物実験やヒトを対象とした研究が示すデータからも、歯根膜からの感覚情報は咀嚼運動制御にとって非常に重要であることが明らかとなっている。しかしながら、ヒト脳の感覚運動制御の研究分野の中で、「歯と咀嚼運動」は手指等の他の体部分に対する研究と比較して、目を引いているとは言い難い状況である。

 また、顎顔面口腔領域の感覚情報は、咀嚼の感覚運動制御に関与する脳部位に伝えられるのみならず、ヒトの認知や精神・神経的な脳機能にも影響を及ぼす。例えば、歯の喪失はアルツハイマー病の危険因子として古くから提唱されてきた。なお、歯の感覚情報は、脳の「記憶を蓄える機能」の維持に重要な役割を果たすことが明らかとなりつつある。このように、歯(歯根膜)に由来する感覚は、咀嚼以外の幅広い全身機能に影響を与えることが推察されるが、いまだ不明な点が多く残されているのが現状である。

 我々は、「よく咬めること」がヒト脳機能、特に大脳皮質にどのような影響を与え、ひいてはどのように全身の健康増進につながるかを解明するために、顎顔面口腔領域からの感覚情報処理機構、咀嚼運動制御システム、および広範な全身機能に対する咀嚼の影響について研究を遂行してきた。

 本稿では、非侵襲的に脳機能を計測する方法のひとつである機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging : fMRI)の概要、fMRI を用いた研究を中心に脳機能からみた「咀嚼」に関する近年の研究を紹介し、臨床歯科のみならず医学分野への将来的な応用の可能性について考察する。

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