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2021年11月15日 (月)

Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ⑧

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 一方咀嚼は、摂食量や代謝に影響を与える要因の一つであるとされている。過去の研究では、嚥下前の咀嚼回数の増加により主観的食欲度の低下や糖代謝の変化が生じたこと、またガム咀嚼により満腹関連ホルモンの動態変化が生じたことも報告されている。このように咀嚼が恒常系の摂食制御機構に影響をもたらすことが報告されているが、指向性が反映される報酬系に与える影響については、いまだ明らかとなっていない。従って、非侵襲的な視線計測法である eye-tracking を用い、咀嚼刺激による食物視覚刺激に対する指向性への影響を検証する研究を紹介する。

 被験者は BMIが25未満の健常成人20名を対象とした。各被験者に、ガム咀嚼条件(無味無臭のガムベース咀嚼)と摂食条件(固形栄養補助食品の摂食を別日に実施し、両条件において、ガム咀嚼前後または摂食前後に、食物画像と非食物画像を並べて提示してみた。この際、画像に対する eye-tracking を行い、全試行中で「最初」に食物画像に注意が向いた試行数の割合(注視方向バイアス)を算出し、咀嚼前後および摂食前後で比較検討した。また、 visual analogue scales を用いた主観的食欲度の評価を行った。さらに、両条件の対照条件として、咀嚼や摂食を行わずその時間帯を安静状態で過ごし、それ以外の条件は同一にした実験を同数の被験者で実施した。

 結果として、主観的食欲度に関しては、ガム咀嚼後、摂食後と同様に有意な低下が認められた。また、ガム咀嚼後および摂食後に注視方向バイアスの有意な低下が認められた。対照実験では、安静状態前後の主観的食欲度や注視方向バイアスに有意な差は認められなかった。

 咀嚼刺激は食事摂取と同じく、食物に対する指向性を減少させることが示唆された。さらに、注視方向バイアスは、「最初」に食物画像に注意が向くことを反映しているため、特に初期注意(初めの瞬間に注意をひくこと)を減少させることが示唆された。報酬関連刺激の顕現性は、一般的に初期注意と関連があり、初期注意は自動的で不随意なプロセスであると考えられているため、咀嚼は食物刺激の顕現性を抑制し(注意をひきつけにくくする)、食物に対する自動的で不随意な渇望(無意識下に注意をひきつけて、抑えられないほど食べたいという欲望)を抑制する可能性が示唆された。また、前述したように、食物刺激に対する指向性は脳内報酬回路の活性を反映すると考えられていることから、報酬回路に影響を与えていることが新たに示唆された。

 これらの知見より、味や匂い、食事摂取なしでも、咀嚼刺激は報酬回路に影響し、衝動的な摂食行動を防ぐことに寄与する可能性が示唆され、咀嚼運動を促すことが過食に対する効果的な予防法となり得ることが推察された。

 

 

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