« Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ⑥ | トップページ | Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ⑧ »

2021年11月14日 (日)

Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法(eye-tracking)を用いた新視点~ ⑦

続き:

5. 脳機能を介して「咀嚼」が食欲に及ぼす影響

 これまで、非侵襲的脳機能計測法のひとつである fMRI を用いた研究を紹介してきた。次に、直接的に脳機能を計測しないものの、脳機能を反映した現象を計測する eye-tracking を用いた研究を紹介したい。eye-tracking とはヒトの眼球運動を計測し、注意や興味を明らかにする生体計測手法で、意思決定等に関する認知心理学分野、社会的感情の獲得等に関する発達心理学に用いられるのみならず、マーケティング等の領域にも活用されている。

 肥満の罹患率は世界的に増加の一途をたどり、多くの疾患および早期死亡の主要な危険因子であるとされている。近年、咀嚼機能の低下と肥満との間に関連があることが報告されており、咀嚼の重要性に対する関心が高まりつつある。

 摂食行動は、恒常系と報酬系の2つの相補的な制御機構によって調整されている。恒常系は、エネルギーバランスの制御に関与しているのに対し、報酬系は、中枢辺縁系における報酬回路内で制御され、報酬や認知、感情などの環境要因により影響を受けるとされている。近年、報酬系による制御は恒常系を凌駕すると考えられ、過食対策として報酬系へのアプローチが重要であると提唱されている。

 ギャンブルやドラッグ等の中毒性があるものに曝露されると、脳内報酬回路が変容し、報酬回路における伝達物質であるドーパミンを多量に放出する。報酬回路における伝達物質であるドーパミンは、”欲求”は”渇望”となり、結果報酬に対する行動を引き起こす。これら一連のサイクルにより、報酬が予測される刺激に対しさらに注意を喚起させ、報酬刺激の顕現性(salience)を増大させる。

 過食や肥満は、視覚情報ににより引き起こされる食欲が強く関与していることが示唆されており、食物の視覚情報も報酬関連刺激となり得るとともに、これは脳内報酬回路を変容し、報酬関連刺激が摂食行動を生じさせる。「指向性(attentional bias) 」は、報酬関連刺激への興味が、認知過程における優先順位を高めた時に生じる状態であり、食物関連視覚刺激に対する「指向性」は、報酬回路におけるドーパミン活性を反映すると考えられている。近年、食物刺激への指向性を減じる訓練により、body mass index (BMI) が低下したと報告された。それゆえ、食物刺激への指向性を低減する方法を開発することは、衝動的な摂食行動を防ぐことにつながる可能性が考えられる。

« Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ⑥ | トップページ | Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ⑧ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事