グローバル・タックス、GBI、世界政府 ⑨
続き:
今後のゆくえ
このような構想は全く荒唐無稽だろうか。確かに、世界的に見てもグローバル・タックスやGBI、世界政府について研究しているアカデミアは僅かだ。また、国際機関、各国政府、NGOも含めて、これらを推進しようとする動きは非常に弱い。しかし、近づきつつある人類の生存危機を、こうしたラディカルな変革なしに回避できると考えることの方が非現実的だろう。
勿論、これらの構想どれ一つとってみても、実現可能性について大きな画題が残っている。GBIを実施するには人類遺産持株会社の創設が必要だ、それを創設するためには世界政府が要るだろう。そして世界政府の実現では、グローバル・タックスの導入が欠かせない。そこで、最後にグローバル・タックス実現の可能性がいかほどのものかを触れてみる。
グローバル・タックスの実現には大きく二つのアプローチがある。一つ目は、各国の課税権力のグローバル化。この点では、OECD(経済開発協力機構)のBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトが進めているグローバル最低法人税率とデジタル課税が注目する処だ。これは、各国が連携して共通の国際課税ルールを作り、相互に課税情報を交換して実施する方法。前者は自国の企業の海外流出を引き留めるために、あるいは海外の企業を誘致するために、法人税の成立引下げ競争が急激に進んでいる現実に対応するために、企業が世界のどこで操業しようとも15%の最低税率が課される仕組み。仮に15%より低税率だった場合、その企業の親会社がある国が差額分を徴税するので、税率がゼロあるいは極端に低いことを売りにするタックスヘイブンは存亡の危機に晒される。
後者のデジタル課税は、特にGAFAと呼ばれるデジタル・プラットフォーマーが巨額の利益を上げながら、課税を逃れてきた事態に対応するものである。これらを含む約100社の多国籍企業のグローバルな利潤を確定させ、一定の基準に基づいて各国の課税権を確定させるという定式配分アプローチを取っている。これにより、多国籍企業、とりわけGAFAの税金逃れを防ぐことが可能となる。
これらはいずれも各国の課税権力を保持しながら、国境を越えてそのグローバル化を図るもので、すでにOECD、G7、G20で基本合意に達して、2021年10月に開催されるG20で最終合意される。
二つ目は、超国家組織や国際機関に対し課税権力を移譲し、主権国家の枠組みを超える新たなグローバル課税権力を創出するアプローチだ。これはEU(欧州連合)がコロナ禍に対応するために7500億ユーロ(約96兆7500億円、1ユーロ=129円、以下の同じ)の基金創設が、その財源として検討されているデジタル課税や金融取引税、国境炭素税が実施されれば、少なくとも、EUレベルでは新たな課税権力が実現することになる。
グローバル・タックスは構想ではなく、すでにその一部が現実化している。航空券に課税し、その税収をHIV/AIDS、マラリア、結核、C型肝炎、最近ではコロナ対策を進めているUNITAID(国際医薬品ファシリティ)の財源にする航空券連帯税が、すでに2006年からフランス、チリ、韓国など10ヵ国で実施。また、金融取引に課税し、投機的な取引を抑制しながら、税収を生み出す金融取引税は、すでにフランス、スペイン、イタリアなど10ヵ国で実施されており、先述のようにEUではこれらの国々が中心となってEUレベルでの実現に向けて議論を続けている。
結局、脱成長コミュニズムのローカルレベルでの実践に加えて、グローバルな政策と制度を整えることこそ、人類の生存危機を回避し、持続可能な地球社会を創造するためには欠かせないのである。しかも、2050年までにこれらの政策や制度が十全に機能しなければならないことを考えると、2030年までに様々なグローバル・タックスを導入、2040年までにグローバル・タックス機関と世界議会を創設、2045年までに世界政府を設立するという時間軸を念頭に置かなければならない。私たち3.5%に残された時間はわずかなのである。
« グローバル・タックス、GBI、世界政府 ⑧ | トップページ | 人間と科学 第328回 植物と薬と人間(6)―① »
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- ポストコロナ医療体制充実宣言 ①(2024.01.04)
- Report 2023 感染症根絶 ④(2023.11.30)
- Report 2023 感染症根絶 ③(2023.11.28)
- Report 2023 感染症根絶 ②(2023.11.24)
- Report 2023 感染症根絶 ①(2023.11.15)