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2021年11月11日 (木)

Science 脳機能からみた「咀嚼」~非侵襲的脳機能計測法 (fMRI)、視線計測法 (eye-tracking)を用いた新視点~ ④

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 一方、歯の形も、進化の過程で多彩な形態をとるように変化を遂げてきた。ヒトにおける歯の形態は、臼歯および前歯に大別されるが、両者の末梢機能は異なる。さらに、歯根膜の感覚受容器の感受性は、臼歯と比較し前歯で高いことが示されており、前歯は繊細な力のコントロールにおいて重要な役割を果たす可能性が示唆されている。よって、先述した手と口の相同性を踏まえると、臼歯および前歯咬合時の中枢における運動制御機構も、power grip およびprecision grip と同様に異なることが予想されるが、詳細は明らかにされていない。

 そこで、臼歯および前歯咬合時の運動制御機構を比較検討し、臼歯咬合時は power grip および precision grip 時と同様に発揮する力が大きいほど、運動の実行を司る領域である M1S1 や小脳における賦活が大きく、前歯咬合時は precision grip と同様に発揮する力が小さいほど、繊細な運動コントロールを司る CMAr、上前頭回における高次の運動機能関連領域、および大脳基底核における賦活が大きくなるという仮説を立てた。

 この仮説を検証するため、15人の健康成人を被験者とし、臼歯および前歯咬合が可能なスプリントを装着した状態で、弱・中・強の3段階の力でリズミカルな顎運動を行った際の、両側咬筋・側頭筋の筋電図(EMG、MR対応) および fMRI の同時計測を行った。解析は、咀嚼筋 EMG と相関を示す脳賦活について、先行研究に基づいた各関心領域における相関の強さを臼歯および前歯咬合時で比較検討した。

 その結果、運動の実行を司る領域である M1S1および小脳 (AC) における脳賦活と咀嚼筋 EMG の値は、臼歯咬合時においてより強い正の相関関係を示した。一方、繊細な運動コントロール機能を司る CMAr、上前頭回、および尾状核における脳賦活と咀嚼筋 EMG の値は、前歯咬合時においてより強い負の相関関係を示し、臼歯と前歯では相反する相関のパターンが認められた。

 以上の結果より、臼歯咬合時は power grip と同様に強い力で噛むほど力強く咀嚼する機能が、前歯咬合時は precision grip と同様に弱い力で嚙むほど繊細な運動コントロール機能が作動する可能性が示唆された。即ち、咀嚼時の運動制御機構は、臼歯および前歯咬合で異なる可能性が示された。

 咀嚼における臼歯および前歯の担う機能については、既存の機能評価(咬合力計測、咬合接触面積計測、色変わりガム検査等)によりそれぞれの持つ機能の一側面のみの評価が可能であったが、この研究より、脳機能の観察を行うことで、臼歯、前歯の担う機能を新たに包括的に評価できる可能性が推察された。また、不正咬合や歯の喪失等による咀嚼機能低下が中枢における運動制御機能に与える影響、さらには歯科治療による咀嚼機能の回復が、中枢の運動制御機能に与える影響を一助となりうると考えられた。

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