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2021年12月12日 (日)

Clinical 歯周病と関連する疾患 ~関節リウマチとEBV陽性粘膜皮膚潰瘍~ ⑥

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5) EBV陽性粘膜皮膚潰瘍と悪性リンパ腫との鑑別

 EBV陽性粘膜皮膚潰瘍のうち MTX 関連などの医原性の例は、投薬の中止あるいは減量で多くは自然消退することが知られている。また免疫抑制の回復が望めない例では放射線療法や化学療法が行なわれている。悪性リンパ腫、ことに Hodgkin リンパ腫あるいはびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫 (DLBCL) と区別がつかない。診断には治療歴などの臨床所見が重要とされているが、再発や、進展し致命的な例もある。

 また、本症に該当すると思われた例でも、悪性リンパ腫で急速に致命的転機をたどった例も報告がある。これらのことから本症例と悪性リンパ腫との鑑別は極めて重要である。本症例における、様々な腫瘍において発現する PD-L1 (programmed cell death ligand type 1) に関しては今後の検討が必要。草間らは、両疾患の鑑別の一助として EBV 陽性粘膜皮膚潰瘍で悪性リンパ腫と比較して遺伝子編集酵素 (AID : activation induced cytidine deaminase) の発現が著しく亢進していることを見出した。

 近代病理学の祖である Virchow は、がんが生じている部位には慢性炎症があり、慢性炎症ががん発生へと導くことを19c.にすでに述べている。 Helicobacter pylori 感染の慢性萎縮性胃炎からの胃がん、ウイルス性肝炎からの肝硬変を経由した肝細胞がん、潰瘍性大腸炎からの大腸がん発生は周知の事実で、Virchow の説を裏付けているという印象がある。慢性炎症は、形態学的に細胞・組織の増殖が前景であり、生じた変異細胞の増殖をも促し、がんの成立を導く微小環境が形成される。慢性炎症状態では、 DNA 損傷を生じさせるような活性酸素などが産生されることも報告されているが、自身のゲノムに遺伝子変異をもたらす AID 異所性発現が、慢性萎縮性胃炎、ウイルス性肝炎、肝硬変および潰瘍性大腸炎で認められている。

 AID は、正常では活性化 B 細胞に発現。種々の抗原に対応するために抗体(免疫グロブリン:Ig) の可変領域を変化させる必要があるからで、他にも Ig のクラススイッチにも関連しているといわれている。その AID が B リンパ球以外の細胞に異所性に発現し、自身の細胞に遺伝子変異を生じさせ、がん化に関連していることがいわれている。

 草間らは口腔のがん化過程において AID の異所性発現があることを見出しているが、EBV 陽性粘膜皮膚潰瘍において AID が高発現していることも見出しており、その発現を促進する Egr とともに、悪性リンパ腫との鑑別に有用なマーカーになると考えている。すなわち、免疫抑制剤と歯周病が原因となって EBV が働き続けていることを意味しており、腫瘍の特徴である自律性をもって不可逆的に過剰増殖(クローン増殖)する前に休薬・減薬を行い、自然消退へと誘導させることが必須であう。

 

歯周病は様々な全身の疾患と関わり合いを持っている。関節リウマチとの関連は双方向の因果関係にあることが考えられてきた。 MTX 治療に伴い、難治性潰瘍である EBV 陽性粘膜皮膚潰瘍が口腔に生ずることがあり、歯周病とも関連する。悪性リンパ腫との鑑別が必要であり、医科歯科連携のもとに適切な対処が必要である。

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