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2021年12月15日 (水)

気候崩壊と脱成長コミュニズム ③

続き:

「人類」とは誰か?

 「人類が気候変動を間違いなく引き起こしている」と IPCC は断定した。だが、どの人類の、どのような活動か?例えば、アマゾンの熱帯雨林やヒマラヤで暮らしている人々は、現在の危機に対してほとんど責任がない。それに対して、先進国のとりわけ富裕層による過剰な消費に責任があることは明らか。事実、G 20 だけで、全体の約80%の二酸化炭素を排出している。また、僅か20 社が、排出される二酸化炭素の 1/3 に責任があるという試算もある。さらに、世界の富裕層トップ10%が排出している二酸化炭素は、所得下位10%の10倍以上だ。だから、「人類」というよりも、高所得国で暮らす恵まれた人々が、地球を破壊しているといった方が正しい。

 だから、IPCCの報告を受けて、バングラデシュの首相シェイク・ハシナが代表となり、48カ国が国際機関に対して、自国の負債を削減するよう先進国に対して求めた。つまり、気候変動の影響による海面上昇によって自国が水没の危機に瀕しているから、自分たちの過去の怠惰のせいで背負った借金を帳消しにして欲しいと懇願しているのではない。むしろ、気候変動の責任は先進国にあるのだから、その対策費用をこちらに押し付けるな、という怒りがここにはある。いや、もっと言えば、そもそも 負債を背負っているのは先進国のほうだ、 だから不当な負債は帳消しにせよ、という訴えなのである。

 どういうことなのか。先進国の資本主義は、自分たちの勤勉さだけで発展してきたわけではない。グローバルサウスから労働力を搾取し、資源を収奪することは資本主義の発展に不可欠だった。奴隷、金銀採掘、プランテーション、化石燃料の蒐集を可能にしたのは、植民地支配である。ありとあらゆるものを掘りつくし、吸い尽くす。これが『「採取主義」(extractivism)である。

 これは過去の話ではない。旧領主国への労働と富の流入は現在も続いている。最新の研究によれば、高所得国には、グローバルサウスから年間一億八二〇〇万時間の労働と 100 億トンの資源が流れ込んでいる。先進国はその資源を用いて、付加価値の高い商品を低所得国へと輸出することで経済成長してきたのだ。また、製造過程で排出された二酸化炭素は地球全体で薄められると考えれば、先進国はグローバルサウスの大気、海洋、森林というコモンズを自分たちの排出した二酸化炭素の吸収源として無償で利用していることにもなる。つまり、資源も労働力も貨幣も先進国に流れるが、途上国が受け取るのはゴミである。裏を返せば、この不等価交換の分だけ、先進国は途上国に対して、経済的・生態学的負債を負っていることになる。

 この責任を前にして、先進国は何をなすべきか。端的に言えば、先進国は不等価交換を一刻も早く止め、負債を返さなくてはならない。そのために、先進国はこれまでの過剰な生産と消費をスケールダウンして、エネルギー消費量や資源利用料を削減していく。それによって、途上国に経済成長の余地を確保しつつ、より平等な世界を目指す。これが、「脱成長」の要求だ。

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