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2021年12月27日 (月)

新自由主義から福祉国家へ ⑦

続き:

5 新自由主義から福祉国家へ

 では、どうしたらわが国の深刻化する格差問題を解決できるであろうか。まず、男女すべての労働者が、旧来の男性正社員の年功賃金型カーブの生涯賃金を得ることが望ましいかどうかを考えよう。これが現在の日本経済で実現可能かどうかは疑問だが、仮に実現できたとしても、最も望ましい選択肢であるかどうかは検討する余地がある。従来の男性正社員一人分の生涯賃金で一世帯の人生三大支出w賄っていた時には、子ども二人の教育費と家一軒の住宅費を支出できた。もし正社員カップルが従来の男性正社員の生涯賃金の二人分を稼ぐとしたら、世帯所得で子ども四人分の教育費と家二軒分の住宅費を得ることができるであろう。しかしそうした生活よりも、世帯所得が多少減っても労働時間の大幅短縮を望む正社員カップルが多いのではないであろうか。オランダやドイツなどで普及している短時間勤務の正社員(正社員パート)という雇用形態ををわが国の正社員カップルの働き方の一つの選択肢としてもっと検討してもよいと思われる。

 その他にもう一つの選択肢がある。スウェーデンやノルウェーの労働者の年齢階級別賃金カーブはほぼフラットであり、日本の非正規雇用労働者の賃金カーブに近い。スウェーデンやノルウェーでh、賃金カーブがフラットでも、日本における人生の三大支出にあたる教育費・住居費・老後生活費が社会保障によって維持されているので、基本的必要を十分に充足できるのである。これが福祉国家型の生活保障だ。

 日本人の今後の働き方について、すべての労働者が旧来の男性稼ぎ主モデルに復帰することは考えられないし、男女の全労働者が長時間労働に従事して従来の男性正社員型賃金を得ることもベストの働き方とは考えない人々が増えていくであろう。

 今後の日本では、かなり長時間にわたり複数の雇用形態と働き方が並行する状態が続くのではないかと思う。伝統的な男性稼ぎ主カップル(男性正社員と女性非正規または無職)が残るほかに、正社員カップル、非正社員カップル、単身世帯が増えていくであろう。

 もっとも重要なことは、どのような雇用形態の労働者がどのような世帯を構成するにしても、だれもが基本的必要を充足して健康で文化的な最低限度の生活を実現できるような社会を形成することである。

 そのためには、最低賃金の大幅な引き上げによって、低賃金の労働者が日常生活費を十分に賄えるようにするとともに、人生の三大支出(教育費・住居費老後生活費)を公的に支援する社会保障制度の拡充が必要。また児童手当・児童扶養手当の大幅増額と、大学授業料無償化および給付型奨学金の増額も喫緊の課題。そのほかに公営住宅の増設や低所得者への公的住宅手当(家賃補助)の導入や、税を財源とする無拠出最低保障年金の創設が急がれるべきであろう。

 最後に本稿の要点確認として。

 経済的不平等(経済格差)をめぐる議論では、所得や資産の絶対額の不平等に目が向けられやすい。しかしそれだけでは、新自由主義のあとにどのような社会をめざすべきかがみえてこない。

 平等を考えるときには、公平――比例的平等が重要である。公平の分配に関しては、貢献原則と必要原則の優先順序が大切で、福祉国家では、必要原則が優先されて、公的責任で人々のさまざまな基本的必要が充足される。それを通じてすべての人に健康で文化的な最低限度の生活を実現することが、福祉国家のめざす生存権の平等なのだ。

 

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