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2021年12月23日 (木)

新自由主義から福祉国家へ ③

同一労働同一賃金続き:

3 貢献原則と必要原則

 前述のように、公平はひれいてきびょうどうを意味する。比例的平等の代表的な原則には、分配的正義における「貢献原則」(貢献に比例する所得)と「必要原則」(必要に比例する所得)がある。経済学者・社会学者は「貢献」を、倫理学者・社哲学者・政治哲学者は「功績」を用いることが多いが、本稿では「貢献」を用いる。

 貢献原則に含まれるのは、①労働原則、②資本原則(資産原則)、③保険原則である。労働原則は労働に比例する所得分配の原則(賃金率の均等など)である(同一労働同一賃金と同一価値労働同一賃金が異なることについては、遠藤公嗣『これからの賃金』旬報社を参照)。

 資本原則は、資本に比例する所得分配の原則である(利潤率や利子率の均等など)。ピケティは、現代世界における資本収益率は資本規模によって大きな格差があり(大資本ほど高い)、公平な資本原則が成立していないことを示して、不公平を是正する累進的資本税を提案した(ピケティ『21c.の資本』みすず書房)。一般に高所得者ほど税率が高い累進税は、高所得者の担税力が大きいことによって説明されることが多い(応能負担原則)。しかし、ピケティが提案する累進的資本税は、資本と資本所得の比率が現実には著しく不公平であることに基づいている。つまりピケティの累進的資本税は、資本と資本所得の比例という公平な資本原則に近づける税制なのだ。

 現実の分配制度(賃金・社会保障・税等)には、貢献原則と必要原則が混合している。以下、具体的な制度に即して二原則の混合について説明する(新村聡「平等と分配的正義の基礎概念再考—賃金・保険・税・社会保障の制度との関連で」。

 たとえば賃金は一般に基本給お各種手当の両者を含んでおり、それぞれの分配原則が異なっている。基本給は労働という貢献に比例する所得であり、貢献原則に妥当する。他方で、通勤手当は通勤費の必要に応じた給付であって、いずれも必要原則が妥当しているのだ。最近の賃金制度改革をめぐる議論で二大焦点となっている同一労働同一賃金と最低賃金は、それぞれが依拠する分配原則が異なっている。同一労働同一賃金は労働貢献と賃金が比例することであり貢献原則が妥当する。他方で、最低賃金は最低必要生活費に応じた賃金であり、必要原則に基づく。

 民間保険と社会保険は、貢献原則の一つであって保険原則(保険料の拠出に応じた保険給付)と必要原則(保険給付の必要に応じた給付)とが重複して適用されている。たとえば火災保険では、火災保険料の拠出と火災によって家屋再取得費が必要となることの両者が保険金給付の条件であり、保険料を拠出していない場合、また火災が起きていない場合には保険金は給付されない。同様に、老齢年金では年金保険料の拠出と老後生活費の必要の両者が年金給付の条件であり、年金保険料を拠出していない場合、また老後生活費を必要とする高齢になっていない場合には、年金は給付されない。

 社会保障の主要な財源は社会保険料と税金だ。医療・介護・年金など保険料を財源とする制度では保険料拠出が給付条件であるのに対して、税金だけを財源とする生活保護・社会福祉・社会手当等では、保険料拠出は給付の条件ではなく、必要だけが、給付の条件だ。社会保障以外にも、税金を財源とする警察・消防・公衆衛生等の公共サービスは必要原則に基づいて給付されている。

 新型コロナ禍では、一人10万円の特定給付金をはじめとして、必要に応じて様々な給付金が支給された(ひとり親世帯臨時特別給付金、低所得子育て世帯生活支援特別給付金、住居確保給付金等)。又、店舗が休業または時短営業をした場合の支援金は、新型コロナ禍対策への協力と貢献に応じた給付(貢献原則)という側面と、休業や時短による売り上げ減少への必要に応じた給付(必要原則)という側面の両者がある。

 ここで、以上説明してきた貢献原則と必要原則という二大原則に基づく分配制度によって、人類はなぜ相互扶助(所得再分配)を行っているのかについて考えよう。

     —つづく—

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