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2021年12月25日 (土)

新自由主義から福祉国家へ ⑤

続き:

4 正規雇用と非正規雇用の賃金格差の比較

 わが国の経済格差の中で最も深刻な問題は、正規雇用と非正規雇用の賃金格差である。特に雇用労働者に占める非正規雇用の割合には、女性56%、男性22%(2017年)と大きな格差のあることが、賃金のジェンダー格差の最大要因となっている(正規雇用と非正規雇用のそれぞれにも賃金のジェンダー格差はある)。

 正規雇用と非正規雇用の待遇格差が大きな社会問題となる中で、安倍政権は同一労働同一賃金の実現を政策に掲げ、労働法を改正してガイドラインを定め、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から、同一労働同一賃金が実施された。最高裁判所のいくつかの判決も出て、通勤手当扶養手当などの諸手当や病気休暇等の均等待遇が進みつつある。しかし今回の労働法改正と最高裁判決では、基本給や賞与や退職金の格差は特に不合理でない限り均等化の対象になっていない。

 わが国の現状では、正規雇用と非正規雇用の賃金格差の大部分が基本給、賞与、役職手当、退職金等の格差によるものであり、今回の労働法改正では賃金格差はほとんど是正されずに残っている。

 では、正規雇用と非正規雇用の賃金を、基本給や賞与も含めて均等化することは可能か。もし非正規労働者の希望者全員を従来の年功賃金型の賃金カーブを維持した正規雇用労働者へ転換することができれば、賃金の均等化はかなり達成されるであろう。しかし長時間労働や転勤のある正規雇用への転勤を望まない非正規雇用労働者もいるし、景気変動や産業構造の変化などによって企業が必要とする雇用労働者数が変化するんで、希望者全員を無期雇用の正規雇用労働者として企業に雇用させることは大きな抵抗がある。多くの企業が非正規雇用を増やしてきた主要な要因は低賃金による人件費節約だけでなく、経済環境の変化に容易に対応できる雇用の柔軟性の確保という側面もあったからだ。

 今後、正規雇用と非正規雇用の格差是正するには、転換を希望する非正規労働者の正規雇用化を推進するとともに、正規雇用と非正規雇用の共存状態が継続しても、非正規労働者が基本的必要を十分に充足して健康で文化的な最低限度の生活を維持できるような社会保障制度を実現することが課題である。以下では、福祉国家で必要とされる社会保障制度とは何かにつけて考える。

     つづく—

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