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2022年1月19日 (水)

パンドラ文書を解読する(上) ④

続き:

砂浜で砂金を探すような作業

 この「パンドラ文書」取材プロジェクトには、日本から朝日新聞と共同通信が参加した。両社合わせて筆者(畑)ら六人の記者がコアとなり、主に日本の個人や企業のタックスヘイブンの関わりを調べる役割を担った。作業は地道で、「パンドラ文書」の1190万件のファイルを検索可能にした ICIJ のデータベースにアクセスし、ひたすr画面とにらみあった。各国の記者たちや ICIJ のスタッフが発見した内容や意見を交換する特設のウェブサイトやデータベースには、外部からの不正侵入や攻撃に備えて高いセキュリティが設定されていて、スマホに刻々と送られてくるその場限りのパスワードの入力を含む二十の認証を経なければログインできない。

 検索作業は主に二つのルートで進めた。一つは、検索窓に「Japan」などと日本ゆかりの言葉を打ち込んで、ヒットした文書の内容をチェックしていく方法だ。今回、匿名の情報提供者から ICIJ に寄せられたのは、タックスヘイブンに法人などを設立するのを専門とする 14の弁護士事務所や業者の内部文書。共同通信の記者がそれを業者ごとにチェックし、日本企業や日本人の名前を拾っていくと、その数は1000を超えた。

 二つ目の方法は、関与が明らかになればニュースになりうる人物のリストをつくり、そのリストごとまとめて検索にかけていく方法だった。衆参の国会議員、秘書、中央官庁の幹部、地方自治体の幹部や議会議員など「公人」のほか、いわゆる「長者番付」に登場するような資産家など、民間も含めて思いつく限りのリストをつくり、検索に回した。こちらもヒット件数は何千とあった。

 ヒットした文書一つ一つを吟味する作業は正直、骨が折れた。リストのうち、ありふれた名字や名前は大抵、同姓同名の別人の名前を含む文書を数多くヒットした。「大臣名でヒットした!」と文書を開いても、公的な証明書の末尾に添えられた署名・公印だったことも多い。偶然もっと有名な人の文書にめぐり合ったという稀有な「幸運」を除けば、ほとんどは記事につながらなかった。

 作業では、文書に登場する人名や会社の資本関係、メールのやるとりの中に潜むささいな情報に目をこらすが、最終的にどんな情報が記事につながるのか、この段階では全く想像もつかない。目の前にあるのは普段なら入手困難な「宝の山」なのだが、筆者(畑)は、まるで広い暗闇を小さな懐中電灯ひとつで歩き回っているような、そんな気分にもなった。

 疑問点のある数十の企業や個人を特定し、報道解禁の約1ヵ月前に設定された「取材解禁」のタイミングに合わせて取材を申し込む方針を共同通信の記者たちと打ち合わせた。資料のリサーチのみでタックスヘイブン利用の目的や実態を知ることは困難なため、当事者に直に質問をぶつける取材は重要だ。

 大手企業や会社の経営者への取材では、企業の広報などいわゆる「表玄関」から申し込む方法を基本としつつ、とりわけ本音を聞き出したいというケースでは、取材依頼の段階で細かな質問に触れず、会って初めて質問をぶっつけるという「作戦」も取材班はとった。

 その反応は「全部説明するから記事にしないでほしい」「細かな説明はしないが適正に手続している」などと様々で、幾度の取材依頼に無視を決め込む人もいた以前もICIJ のプロジェクトに参加した経験のある取材班の同僚の一人は「やましいことがない人はすぐに取材に応じて説明してくれるんだよな」とぼやいた。決めつけは禁物だが、「確かにそうかも」と思うケースは一度ではなかった。

 

 

 

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