« Report 2021 医療費の動向 ③ | トップページ | Clinical 抗血栓薬を内服している患者の抜歯 ② »

2022年1月 5日 (水)

Clinical 抗血栓薬を内服している患者の抜歯 ①

栗田 裕(信州大学医学部歯科口腔外科学教室教授、同大学医学部附属病院副院長)さんと今井 裕(日本歯科専門医機構理事長、日本有病者歯科医療学会理事長)さんとの共同出筆による研究文である。 コピーペー:

はじめに ~ガイドライン作成の経緯~

 歯科治療の多くは基本的に外科処置であり、出血を伴うことが多い。抜歯は歯科医師が頻繫に行う外科処置であり、抜歯後に十分な止血効果が得られなかった後出血などが出現すると、患者および術者(歯科医師)にとっては大きな不安とストレスとなる。また、持続する出血は生命維持への影響も懸念される。

 抜歯後の止血異常や後出血は全身および局所の原因で出現。全身的な要因としては、血管、血小板、血液凝固系、線溶系の異常が知られているが、漸進的な要因で抜歯後出血をきたす患者の頻度は比較的まれであった。しかしながら、超高齢社会の到来や近年の予防を含めた医療の進歩につれて、医原性の止血異常を有する患者が増加している。なかでも、抗血栓療法(抗血小板薬・抗凝固薬)を受けている患者の頻度は高く、これらの患者は歯科医療の現場でも日常的に遭遇する。

 先に述べたように、歯科医療の多くが出血を伴う処置であり、医療の中で最も観血的処置が行われているのは歯科医療だ。このような状況で、抗血栓療法を受けている患者に対して歯科治療を行う際にどう対処するかは、歯科医師のみならず、処方する医師にとっても解決すべき課題であった。一般に抗血栓療法を受けている患者では止血時間が延長していることから、歯科医療の現場からは、できれば抗血栓薬を休薬して、止血時間が正常に近い状態で観血的処置を行いたい。

 一方、処方する医師の側からは、抗血栓薬療法薬を中断することによって血栓症を惹起する可能性があるため休薬をしたくない。両者の立場は両端に位置するのであり、休薬の適否について一時期綱引きの状態があった。

 1990年代から欧米を中心に EBM (Evidence Based Medicine : 根拠に基づく医療)の概念に伴い、診療ガイドライン (Clinical Practice Guideline ; CPG) の作成が行なわれるようになった。日本においても 1990 年代後半から診療ガイドライン作成に関する検討が行なわれ、2000年以降に診療ガイドラインが作成、公開されるようになった。

 このような背景のもと、2004年日本循環器学会が『抗凝固・抗血小板療法のガイドライン』を作成し、その中で「抜歯はワルファリンを原疾患に対する至適治療域にコントロールした上で、継続下での施行が望ましい」と規定し、抗血栓薬内服下での抜歯が推奨された。

 しかしながら、その一方で、当時歯科臨床の現場では抗血栓療法を中止・減量することが習慣化されており、医師と歯科医師の間においてもこの問題に対する認識の乖離がみられていた。また、「継続」か「中断」かの選択は、施設間、医師、歯科医師によって異なっており、医科ー歯科間、医療施設間でまだまだ十分なコンセンサスが得られていないというのが現状であった。さらに、この問題に関する歯科側からのアプローチも十分ではなかった。

 これを受け、2008年に日本有病者歯科医療学会が中心となり、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会の 3 学会で、抗血栓療法患者における普通抜歯に対するガイドラインの作成が企図され、先人の努力により『科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2010 年版』が作成、公表された。本ガイドラインは Minds ガイドラインライブラリに掲載され、多くの医療従事者が活用し、名実ともに抗血栓療法患者の抜歯に関する診療ガイドラインとして社会に認知され、安全で効果的な医療の推進に貢献している。その後、本ガイドラインは定期的なアップデートがなされており、2015年版、そして昨年 2020 年版の内容を抜粋して、抗血栓療法患者の抜歯について概説する。

« Report 2021 医療費の動向 ③ | トップページ | Clinical 抗血栓薬を内服している患者の抜歯 ② »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事