Clinical 抗血栓薬を内服している患者の抜歯 ⑤
続き:
2) 抗血栓療法患者の抜歯における血栓薬継続/休止の益と害
抗血栓療法を受けている患者において観血的処置(ここでは抜歯)を行う際に、抗血栓薬を継続(非休薬)することによる害は、止血困難や術後出血が増加すること。一方、継続することによる益は、血栓・塞栓症の減少だ。逆に抗血栓薬を休薬することの害は血栓・塞栓症の増加で、益は止血困難や術後出血の減少だ。2020年版のガイドラインw策定するにあたり行われた SR では、以下のような結果を得る。
(1)抗血栓療法患者の抜歯における術後出血
抗血小板単剤に関しては、「継続により後出血の頻度はわずかに増加する」としている論文が多かったが、継続と休止で有意差はみられないとするものが多かった。抗血小板薬複数剤については、後出血のリスクが多いとするエビデンスはなかったが、複数剤継続は単剤に比べて「後出血の頻度は差がない」、「後出血の頻度は増加する」との結果が混在していた。ワルファリンに関しては、継続下(用量調整を含む)での抜歯で「臨床的に問題とならない軽微な出血を含めた術後出血のリスクは増加している」ことが示されたが、臨床的に問題となる中等度の出血(医療機関への受診が必要な出血、もしくは縫合等の処置や事前計画にない介入を要する出血)は増加しないとの結果であった。DOAC 継続と休薬を直接的に比較したものではなかったが、「DOAC とワルファリンとの比較結果から継続下の後出血はワルファリンと同様」と考えられるとの結果であった。以上の結果は普通抜歯に関する研究がほとんどであることに注意が必要である。
(2) 経口抗血栓薬の休止と血栓・塞栓症
本SR の結果では、エビデンスの確実性は低い、または非常に低いと判断されているものの、「抗血小板薬の休薬により血栓・塞栓症は増加する」という報告が多かった。脳梗塞の二次予防でアスピリン療法を中止すると、脳梗塞のリスクが3.4倍に上昇すると報告されている。一方で、心臓以外の手術時に抗血小板薬の継続や休薬の死亡率や虚血および出血イベントへの影響をレビューした総説によると、抗血小板薬の継続や休薬が、死亡率や虚血性イベント、およびげかかいにゅうを必要とする出血や、輸血を必要とする出血イベントに関連しなかったと報告されている。
ワルファリンに関しては、ワルファリンを中止した場合に血栓・塞栓イベントが増加することが示唆されていたが、そのエビデンスを明確に示すものはなかった。しかし、周術期にワルファリンを休薬うると、1%未満の頻度で血栓症や梗塞症が発症、その多くは重症で転帰不良となることが知られている。
DOAC に関しては、ワルファリンとの比較した試験結果で、一時的な休薬によりワルファリンよりは頻度は低いものの、血栓・梗塞症が 1%未満の頻度で出現することが報告されている。
(3) 益と害のバランス
抗血栓療法の継続による益である血栓・塞栓イベントの減少はわずかと考えられたが、休薬により発症率は少ないながら重篤な障害をきたす可能性が示唆された。一方、継続による害である後出血は増加するものの、局所止血で止血可能なものが多く、重篤は後出血発現のエビデンスはないとの結果であった。このため、本ガイドラインにおける結論として、「血栓・塞栓イベントの減少(益)は、局所止血で止血可能な小出血(害)と比較すると、益が優る」との結果に至っている。
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