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2022年2月 4日 (金)

パンドラ文書を解読する(上) ⑥

続き:

 筆者はその女性に質問した。「バージン諸島を会社の所有地として選んだのは、税金をできるだけ安くするためにという目的はなかったのでしょうか?」

 女性は即答。「ほかの会社もみんなそうじゃないですか」

 筆者が「ええ」と相づちをうつと、女性は「そうですよね」と言葉を継いだ。「私は『そう』言いたくないですけど、それ以外にはないです。それ以外にはないです。それ以外の理由でタックスヘイブンに親会社を作る会社はありますか。それを聞きたいです」

 筆者が取材してきた経験によれば、彼女の認識とは異なり、タックスヘイブンに会社があるからといって、必ずしも税を回避する目的があるとは限らない。むしろ逆に、損失を隠し、利益をより大きく見せかける「粉飾決算」の目的でタックスヘイブンを使った山一証券やオリンパスのような事例が、バブル崩壊後の日本では多く見られた。利益をできるだけ小さく圧縮して税を回避するのとは真逆であり、日本の「失われた20年」を象徴する皮肉な傾向である。

 筆者は「いろいろな目的がある」と指摘した上で、「いわゆる租税回避の目的について、法律には全く違反せずにやっておられるのだと思うんですけど、世の中全体として『それはあまりよくない』ということもあって改革をやっており、そういうことまあって個別の事例について取材しています」と説明。

 すると、女性は「ひとこと言わせていただく」と前置きし、「本社、ホールディングスの機能自体を2016年にシンガポールに移したのは、そうした動きがあったから」と説明した。

 女性によれば、取引先に大手企業が多く、「世の中の流れ的」に、バージン諸島に本社があることに、差し障りが出てきたのだという。そのため、バージン諸島の会社清算し、シンガポールに新会社を設立して、そこを親会社にしたのだという。

 女性によれば、かっては、バージン諸島の親会社に日本法人からコンピュータシステム利用料を支払っていたという。

 筆者は彼女に尋ねた。「日本における納税を合法的に少なくするために租税回避地に法人をつくって、そこに費用としてお金を払う、ということで日本の利益が減る(つまり、日本での納税が減る)。バージン諸島は税率がゼロですし、シンガポールも税率が低い。そのぶん、租税が安い海外に利益が留保される、という構図になっている」

すると、彼女は言う「大きな構図でいったらそうなのかもしれませんね」と認めた。

日本には、諸外国の模範とされるようなタックスヘイブン対策税制があり、外国諸国に比べて、この種の租税回避はなかなか認められづらい。タックスヘイブンにある子会社の利益は、その子会社にタックスヘイブンでの事業実態がない限りは日本の本社の所得に合算して日本で納税するのが通例だ。そのため、筆者は念のため「持ち株会社の利益と日本の法人の利益を合算して税務署に申告して、ということは特にされていない?」と質問した。すると、彼女は「そういうのはしていない」と答えた。

 彼女ら夫妻の「個人会社」が半分所有するバージン諸島の持ち株会社は、日本法人の子会社ではなく、親会社だ。しかも、日本人によって100%所有されているのではなく、50%は英国の男性による所有だ。日本に住む人や日本の法人によって50%超の株式を直接または間接に支配されていればタックスヘイブン対策税制の対象になりうるが、ぎりぎりそうではない。だから、これに日本の税務署が課税をするのは簡単ではなさそうだ。

 あとでシンガポールの法人登記情報を確認すると、彼女の説明の通り、バージン諸島法人と同じ名称のホールディングス会社がシンガポールで2016/06/29、に設立されていた。これは、パナマ文書の報道が2016/04/03、始まって3か月弱を経て、日本でもタックスヘイブンへの批判の声が高まっていた時期にあたる。バージン諸島に親会社が存在することが「世の中の流れに逆らっている」と彼女が言っていた理由が筆者にはよくわかるような気がした。

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