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2022年2月 6日 (日)

人間と科学 第331回 医療統計学リテラシー(3) ①

新谷 歩(大阪市立大学大学院医学研究科 医療統計学教室)さんの文章を載せる。 コピーペー:

   リスクの計算

リスクとレート

 タバコを吸うと心筋梗塞のリスクが増える、ワクチンを打つとコロナ感染のリスクが減る、薬を飲むと病気のリスクは減るが副作用のリスクが上がるなど、常にリスクを意識して臨床行為が行なわれる。リスク計算はまさに臨床研究の第一歩である。”リスク”とは何か、どのように数量化するのかを考えてみよう。

 女性と男性で認知症の発症率が違うかを調べた研究例がある。80歳から研究に参加した3人の女性のうち、Aさんが85歳、Bさんが90歳、Cさんが92歳で発症したとする。

 同様に、80歳から研究に参加した3人の男性のうちDさんが85歳で発症したものの、EさんとFさんは82歳で亡くなった。

 リスクとは通常、イベントの割合で計算される。割合でみた場合、女性の認知症発症率は100%、男性では、33.3%となる。これによって、リスク比は100%÷33.3%=3、女性のほうが男性よりも3倍認知症になるリスクが高いと言えるだろうか?

 リスクの見積もりには、割合の他にレートが使われる。レートとは、どのタイミングで認知症が発症したかという字間の情報を用いて、リスク計算を行う。レートの計算はイベント数を総追跡時間で割って計算するのだ。この例では、女性の認知症発症レートは認知症になった3人を総追跡期間の27年で割って0.111と計算される。

 男性では1人÷9年で0.111となる。レートは、1人を1年追跡すると0.111人に認知症が発症するというふうに、イベントの起こる速さを表現している。

 この例では男女で比較した認知症の発症レートの比率は0.111÷0.111=1となり、レートを用いた場合、認知症の発症リスクは男女で等しいことが分かる。

 割り合いの計算で、男性で認知症の割り合いが少なく見積もられたのは、男性のほうは認知症になる前に亡くなっており、発症まで十分な時間がなかったからかもしれない。イベントのおこる時間を考慮するレートを用いるほうが、より正確にリスクを評価することができる。

80歳から追跡開始

 Aさん—➡ 85歳で認知症発症       女性の発症リスク(割合)=100%

 Bさん―――—➡ 90歳で認知症発症    男性の発症リスク(割合)=33.33%

 Cさん――――――➡ 92歳で認知症発症  リスク比=100÷33.3=3

                      女性のほうがリスクが3倍高い

 Dさん—➡ 85歳で認知症発症        女性の発症レート=3÷27=0.111人年

 Eさん➡ 82歳で死亡            男性の発症レート=1÷9=0.111人年

 Fさん➡ 82歳で死亡            レート比=0.111÷0.111=1

                       男性、女性もリスクは同じ

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