パンドラ文書を解読する(上) ⑦
続き:
SFCG元社長、破産直前にパナマに法人設立
東京・渋谷の繫華街を5分ほど歩き、東急百貨店本店の脇を通り抜けると、その先には都内有数の高級住宅街が広がる。東京都渋谷区松濤。2009年に経営破綻に陥った商工ローン大手「SFCG」(商工ファンド)の大島健伸・元社長(73)の豪邸がその一角にある。筆者(畑)は今やひっそりとしたその場合に立つたび、かって社会を揺るがした経済事件の喧噪を思った。
SFCGは高金利の融資や保証人らに対する強引な取り立てが社会問題となり、多額の負債を抱えて2009年2月に民事再生手続きを開始。その直前の1月、大島氏を「実質的所有者」とする「カルウッド・オーバーシーズ(Calwood Overseas S.A.)」という名前の法人が、パナマに設立されていたことを示す文書が「パンドラ文書」の中にあった。SFCGはその後、破産手続きに移行し、大島氏個人も同年6月に破産。今回わかった法人の存在は、破産管財人の調査では把握されていなかった。
パンドラ文書に含まれている一枚の書面には、この法人について「私が実質的所有者であることを確認する」という英文に、「大島健伸」という漢字の署名が添えられていた。署名は大きくはっきりしたやや太めのペン字で、筆跡は、大島氏が破産事件にからむ訴訟手続きで東京高裁宛てに提出した陳情書にある直筆署名とよく似ている。その書面の宛先には「トラストコープ(Trustcorp Limited)の取締役」とある。大島氏が海外にもつ信託を管理していたとして管財人の調査報告書にも「トラストコープ」という名前の会社が登場するが、同一の法人か、具体的にどんな関係かは文書からは不明だ。事務所の所在地として記されたパナマの首都パナマ市内の住所は、同国に本社を置き、タックスヘイブン法人の設立や管理を手がける「アルコガル(Aleman,Cordero,Galindo, & Lee,Alcogal)」という法律事務所と同じだった。
カルウッド社が2009年2月に英領バージン諸島に所在する「ウォーターフォード・ヨーロッパ(Waterford Europe Limited)」という別の法人から6億円の融資を受ける契約を結んでいたことを示す資料も「パンドラ文書」の中に見つかった。融資契約は、海外の取引で一般的なドル建てではなく、円建てで6億円とされていた。その後、この融資が期日通りに返済されていないとする文書もあった。融資元であるウォーターフォード社について、法人設立に関わった法律事務所の資料には、実質的所有者として大島氏の親族の名前が記載されていた。
「パンドラ文書」にはこのほか、大島氏を実質的所有者とする5つの法人の資料があった。カリブ海の島国バハマにあるドレイク・アドバイザリー(Drake Advisory Limited)'ジナー・マネジメント(Sinar Management Limited)'ネルソン・マネジメント(Nelson Management Limited)'ガルーダ・アドバイザリー (Grauda Advisory Limited)。所在地不明のザラスシュトラ(Zarathustra L.P.)。顧客機密情報(Client Confidential Information)と題する 2004/03/02、付けの各文書でこれらの法人の業務内容は「投資顧問」「投資管理」とされ、実質的所有者は大島氏と記されていた。2010/05/25、付けの文書でも、いずれも同様の記載を確認できた。
破産管財人が作成した財産目録には、今回判明した7法人は含まれていない。目録に記載された大島氏のタックスヘイブン関連の資産は、英王室属領ジャージー島の2つの投資信託のみ。管財人がその資金を回収しようとしたところ、親族会社が譲渡担保権を実行したと主張したため、タックスヘイブンの英領ケイマン諸島で訴訟となった。最終的に和解して5億7000万円を回収している。2011年出版の著書『木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)でSFCGの破綻を迫ったジャーナリスト高橋篤史さんは「当時、大島氏の財産関係は非常に複雑な構造が組まれていた」と話す。
破産管財人は当時の2009年、約2670億円相当の資産が、破綻直前に親族会社などに無償や格安で譲渡されたと公表。東京地裁は管財人の申し立てを受け、大島氏への約717億円の損害賠償請求権を認める決定を同年に出した。一方、刑事責任をめぐって、大島氏は多額の資産を流出させたとする民事再生法違反(詐欺再生)などの罪で起訴されたが、2016年に無罪が確定している。関係者によると、大島氏は近年、東南アジアのラオスで消費者金融やリース事業の展開に関わっているという。
筆者(畑)らは、大島氏に説明を求めるため、2021/09/16~2021/10/04にかけて大島氏の松濤の自宅に5回通い、書面を投函して返答を待った。2021/10/04、a.m. 8:00にこの家に「通勤」してきた女性は、「留守を預かっているお手伝いなので何も知らない投函していただいた手紙は受け取りました」(大島氏本人にも)話はしました」と話し、開錠して中に入っていった。その後も、大島氏からの返答はない。
高く分厚い塀に、いくつもの監視カメラ。威圧的ともいえるその豪邸に通ううち、筆者(畑)の頭に、これはいったい誰から何を守っているのだろうか。という疑問がふと浮かんだ。
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