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2022年3月26日 (土)

スマホ位置情報の「一網打尽」捜査―――「ジオフェンス令状」の正体 ⑥

続き:

5 日本における使用の可能性

 日本でジオ令状のような手法で位置情報を取得する捜索手法は可能か。

 日本でも憲法 35条は合衆国憲法修正四条の考え方を基本的に取り入れたとされ、一般令状は禁止されると解釈されると解されてきている。すると、ジオ令状と同種の強制処分を行えばその捜査手法は問題となるはずだ。被疑者が特定されているのであれば、その位置情報を取得しようとする場合には捜索差押え許可状や検証許可状じよって通信事業者からこれを取得できる。これに対して、ジオ令状は被疑者の位置情報を取得している可能性のある事業者に対して、特定地域の一定時刻に所在したアカウント情報の網羅的開示を求める。

 刑事訴訟法 219条では、捜索差押え令状の発付にあたって「被疑者もしくは被告人の氏名」を特定することが求められている。この点、現実には被疑者の氏名が捜査機関にわかっていない場合はあるので被疑者氏名不詳の令状が発付されることは稀ではない。

 だが、氏名不詳の押収令状を使ってその不詳の人物を特定するような捜査手法が許容されるかどうかはまた別の問題になる。これまで、こうした捜査手法が日本の法廷で正面から争われたケースはない。しかしながら、例えば、日本ではかってオウム真理教による地下鉄サリン事件の捜査のため、被疑者不詳で国会図書館の利用者記録 14ヵ月分(利用申込書53万人、資料請求票 75万件、複写申込書30万件)を押収したことがある。その記録から犯人逮捕に結びつく情報が得られたのかどうかは定かではなく、かかる令状についての合憲適法性が裁判で検討さてることはなかった。

 この国会図書館に対する押収を同じように日本の事業者に対して位置情報の提供を命じる令状請求が行なわれた時、これを法的に阻止できるのは令状裁判官しか考えられないが、そのゲートキーパーとしての有効性に疑問が残るだろう。

 では任意処分ではどうか。考えられるのは捜査関係事項照会(刑事訴訟法 197条 2項)によってジオ令状の第一段階にあたる特定地域の一定時刻における位置該当端末のリスト開示を受けて、その後、第二段階として捜査機関がリストを絞り込んだ上で特定のアカウント情報について捜索差押え令状や記録命令付き差押え令状によって個人情報を取得するという方法が考えられる。

 この場合、通信事業者も捜査関係事項照会や令状についてはこれに応じるとされているところ、不特定多数の大量の位置情報の提出を拒否するかどうかは疑わしい。一部の企業には不特定人に関わる情報提供は行わないと表示するものもあるが、捜査関係事項照会には保秘要請が付帯するため(同法同条5項)情報主体に不告知のまま大規模な位置情報の収集が行なわれてしまう可能性を否定することはできない。

 日本の法律学の学説でこのような地引き網的捜査を積極的に支持する立場は見当たらないものの、ジオ令状と同種の手法を手続的に規制することについては悲観的に思える。

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