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2022年3月22日 (火)

スマホ位置情報の「一網打尽」捜査―――「ジオフェンス令状」の正体 ③

続き:

2 ジオフェンス令嬢の仕組み

 ジオ令状は2016年頃から米国の法執行機関で使われ始めたとされる。この令状は「逆ロケーション捜査令状(reverse-location search warrant)」とも呼ぶ。あるエリアで位置情報サービスを利用していたアカウントやユーザーに情報を提供するよう求める提出命令の一種。グーグル社の場合、ユーザーの利用履歴は 18ヵ月間保存しているので、その間であれば位置情報と紐づけられている限り一定区域に存在したユーザーの利用履歴を検索することが可能。

 ジオ令状での位置情報提供要請おおむね三つの段階に分かれる。第一段階では、グーグル社は当該令状に従うかどうかを確定する。従わない場合は法執行機関に対して当該令状の適法性を法廷で明らかにするよう求める。第二段階では、令状で求められたエリアに所在した対象アカウントの探索とリストの提供である。第三段階で、法執行機関はリストから捜査対象を絞り込み、詳細なユーザー情報の開示を同社に要求する。同社はこの時点で該当ユーザーにかかる事情を告知することになる。

 逆ロケーション捜査という方法は、特定車両にGPS発信装置を取り付けて一定期間の位置情報を記録し続ける場合に令状を要するかが争われたターゲット監視型走査とも、特定端末の一定期間の基地局位置情報の取得に令状を要するかが争われたデータ探索型捜査とも異なる。ジオ令状は、被疑者の特定とその証拠を獲得するため一定区域に所在した情報を提供させて携帯端末情報を「地引き網(dragnet)的」に収集して被疑者を絞っていくという逆行的なプロセスが特徴的だ。

 このジオ令状については、米国法で歴史的に否定されてきた「一般令条(general warrant)」に該当し憲法に違反するとの批判が強い。他方で法執行機関側は、企業が取得している位置情報は利用者から承諾を得て収集したものであって、その保有するデータを一定地域の一定時間に限って提供させることは第三者法理――第三者に提供した情報にはプライバシーの合理的期待はない――に従えば適法であると主張する。

 さて、いうまでもなくスマートフォン市場におけるグーグル社の優位性は圧倒的で、世界の約七割のユーザーが同社のアンドロイド系機種を利用している。グーグル社のような IT 企業の中でもこうした圧倒的な市場独占率を誇る基盤的なサービスをプラットフォーマーと言う。そのうちのひとつであるアップル社の提供する iPhone も市場の二割以上を占める。そのアップル社は iPhone ユーザーの位置情報を収集していないが、iPhone ユーザーがグーグル社のアプリやサービスを利用すれば当然その位置情報を取得される。現在、スマートフォン・アプリの中で最も使われているのはGメール、Google map、Google search の三つで、これは iPhone ユーザーでも変化していない。米国では2020年には二億二千万台のスマートフォンが使用されており、その 96%がグーグルを使って検索を行っているとされる。

 グーグル社による位置情報履歴取得はオプトイン方式であり、ユーザーが履歴取得を可能にする設定をしない限り同社はデータを得ることができない。グーグル社の技術者は同社のサービスを利用するおよそ1/3のユーザーがい位置情報履歴をアクティブにしていると推定する。ここで履歴取得対象者の不公平性、不完全性という問題が生まれる。さらに、グーグル社の移置履歴取得に関わる技術的正確性も不完全だ。同社による対象スポットとの照合率は 68%だとされている。つまり100%のユーザーが捕捉されるとは定まらない。一定区域に所在したにもかかわらず捕捉されない可能性もあり、ここで移置履歴取得の不正確性という問題が起きる。

 なお、グーグル社による移置履歴取得を完全にオプトアウトできているかについても疑問を指摘する声もある。AP通信はオプトアウト設定にもかかわらず特定のアプリが位置情報を取得できるようにしていると報道しているし、アリゾナ州当局が起こした消費者詐欺訴訟では、オプトアウト設定にもかかわらず同意なく位置情報を取得してユーザーに広告が流されていると主張されたこともあるからだ。

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