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2022年3月31日 (木)

人間と科学 第333回 医療統計学リテラシー(5)―② 

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 表 1の例は心臓病ハイリスクの患者を研究開始時にアスピリンを使用していたどうかで群分けし、アスピリンを使うことで死亡率が下がるかを調べた観察研究において、比較群間の背景を比べたものである。

 この研究で得られたアスピリン投薬群と非投薬群の死亡リスクの差を数値化したハザード比は1.06と、アスピリンを用いると、用いない群より1.08倍死亡リスクが高くなることを示した。このエビデンスを基に、果たしてアスピリンには効果がないと決定づけてよいだろうか。アスピリンを投薬された群は平均年齢が 6歳高く、男性の割合も多く、冠動脈疾患の既往症に関しては 70%と、アスピリン非使用群の 20%を大きく上回っている。

 つまり、アスピリンが効かなかったのではなく、よりリスクの高い人にアスピリンが投薬されたにすぎない。これは明らかに「交絡」が起こっている。

 交絡の調整には多変量回帰モデルを用いた解析が使われる。回帰モデルとは我々が中学 1 年生習う、Y=a+ bX という式であり、Yにあたうものが臨床アウトカム、この場合はアスピリンの有無を表す変数が Xに相当する。この回帰モデルに、年齢・性別・重症度のような調整したい背景因子を加えることで、数学的に比較群のズレを数値化し、そのズレがアウトカムに及ぼす影響を取り除くことができる。

 Gum の研究では 26個の背景因子を多変量解析で調整、結果としてアスピリンの効果を示すハザード比較は 0.67 (P=0.002)。背景のズレを調整した結果、アスピリンの効果が示された。

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