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2022年4月 4日 (月)

パンドラ文書を解読する(下) ⑥

続き:

「行動の必要性を示している」

 米国東部時間で、2021/10/03 p.m. 00:47/、「パンドラ文書」の報道が始まって 17 分後、米国政府のバイデン大統領は「あまりにも長い間、トップの人々が中流の人々を犠牲にして、ただ乗りしてきた」と指摘し、そそ是正を誓うツイートを発信した。

 これに続く、一連のツイートによれば、40万ドル(4千万円余)を下回る年収の人の税金は上げず、トップと大企業に対する増税によって、中流層の歴史的減税を実現したい、という。

 米国では、実効税率で見て、中流層の税負担が重い一方、超富裕層や大企業の税負担が軽い「逆進性」」が長らく問題視されてきており、バイデン大統領らはそこを是正しようをいうのだろう。日本もひとごとではない。

 翌日4日、日本では岸田内閣が発足。岸田文雄訴首相は記者会見で、「いわゆる 1億円の壁ということを念頭に金融所得課税についても考えてみる必要がある」と改めて述べた。金融所得への税率が低く、所得が1億円を超えると逆に税負担率が下がる「逆進性」が日本でも生じている。岸田氏は、その「1億円の壁」の打破を自民党総裁選に向けて出した政策集を掲げていたのだ。

 これら日米首脳の発言は、世界各国が、自国から海外への富の流出を恐れるあmり続けてきた「底辺への競争」(Race to the bottom)を逆方向に反転させ、所得課税を強め、貧富の格差を縮める方向へと動き始めたことを示す、その一端だと言える。セーシェルなどタックスヘイブンを含む 136 の国・地域はこの 2021/10/08、売上高の大きな多国籍企業への法人課税居ついてグローバルな最低税率 15%の設定で合意。そして、それは、国際調査報道ジャーナリスト連合がこの10年にわたって取り組んできたタックスヘイブン秘密ファイルお調査報道の一つの成果なのだろうと筆者は感じる。

 税金逃れはタックスヘイブンの問題点の一つに過ぎない。いままで見てきたように、「税」だけが「回避」されているのではなく、保険業法、会社設立、金融など様々な国の規制が回避されている。中には、首をかしげたくなるような規制がないこともないが、そうであっても、民主的に制定された法律規制が一部の人によって脱法的に回避され、それが放置される状態は、やがて法秩序の基礎を掘り崩すことにつながるおそれがある。

 米ワシントンで2021/10/13、開かれた主要 20カ国・地域(G20) 財務相・中央銀行総裁会議で、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の国際組織・金融活動作業部会 (FATF) のマーカス・プライヤー総裁は「パンドラ文書は行動の必要性を示している」と述べた。

 だれが支配・所有しているのかが不明の書類上だけの法人や組合はしばしば、マネードンダリングなど不正な目的で用いられている。プライヤー氏によれば、それを規制するための基準が効果的に実施されておらず、また、基準そのものに強化の必要がある。その事実を「パンドラ文書」に裏付けていると同氏は指摘。タックスヘイブンの法人で匿名性をまとうのは、国家の規制や監視を回避するための第一歩だ。

 世の中に存在する問題の多くは、その問題の存在を指摘され、その実態を明らかにされなければ、解決されえない。具体的な事実とそれに伴う実感とをもって問題だと気付かれていない問題は、その被害者たち当人さえ、地震の被害を実感できず、ゆでガエルが熱湯ならば逃げのびることができるのに、常温の水ならば徐々にゆでられ、やがて死に至るのと同様に放置され、悪化していく。マネードンダリングなど、タックスヘイブンを用いた種々の「回避」はそうした潜在する問題である。それを明らかにし、問題として提起する国際的なジャーナリズムの活動に、微力であっても関われたことは筆者たちの大きな誇りである。

 

 

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