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2022年4月 3日 (日)

パンドラ文書を解読する(下) ⑤

続き:

保険業法の規制を回避、違法性に議論

 今回、当事者への直接取材を通じて記事の方向性が下調べ時点の見込みから大きく変わっていったのは、海外の生命保険にからむタックスヘイブン利用の話だtt。

 「パンドラ文書」を精読する過程で、日本国内の資産家が主にバージン諸島に法人やトラスト(信託)を設立し、カナダの生命保険「サン・ライフ」に加入したことを示す記事もいくつも見つかっていた。筆者(畑)らは当初、相続税を減らすなお税金面の狙いがあるのではないかと考えた。しかし、当事者たちは皆、この狙いを否定。税金に詳しい専門家も「税制上のメリットは生じない」と解説した。

 では、何のためにタックスヘイブンに法人を作るのか。

 取材を進めると、日本に住む人が海外の保検に加入することを原則禁じた保険業法の規制を「逃れる」ためであることが見えてきた。

 保険業法 186 条は、日本に支店を持たない外国の保険会社が国内居住者と契約を結ぶことを第一項で原則禁じた上、第二項で被保険者の側にも規制をかけている。

 「日本に支店等を設けない外国保険業者に対して日本に住所若しくは日本に所在する財産(中略)に係る保険契約の申込みをしようとするものは(中略)内閣総理大臣の許可を受けなければならない」

 条文中の「許可」は、日本に一時的に住む外国人が自国の保険に加入するケースなどg想定されているもようだ。許可がない限り、契約は禁止。これらの規定の趣旨は主に契約者保護とされている。

 資産家たちは、この条文の「抜け道」としてタックスヘイブンを利用、利率が高い海外の生命保険を契約しているのだという。

 世界的な人気作品がある漫画家の長男は、バージン諸島に設立した信託を介し、「サン・ライフ」に加入していた。筆者(奥山)が自宅を訪ねて取材を申し込むと、対応した家人は「税理士に当たってほしい」と答えた。後日、一族の財産顧問を務める税理士が本人の同意の上で筆者(畑)らのオンライン取材に応じ、日本の居住者は直接加入できないため、バージン諸島の信託を契約者として加入したと説明した。「海外の銀行や保険ブローカーからの提案」があり、国内の商品に比べて「保障(額)が厚くとれる」という。保険業法に抵触するかどうかについては「白か黒かわからない。(法律について)説明し、最終的にはご家族で加入を決めた」と述べた。

 元プロ野球選手の男性が同様の仕組みで「サン・ライフ」に加入したことを示す書類も見つかった。元選手は引退後、所属したチームの地元で公共性のある新規事業の立ち上げに関わっている。取材班の筆者(畑)と共同通信の記者は、その事業体を通じて「なぜ法人の所在地をタックスヘイブンにしたのか尋ねたい」と複数回取材を申し込んだほか、自宅も訪ねて取材を依頼したが、最終的に返答は一度もなかった。

 全国で美容事業を展開する60歳代の女性社長は、「資産は自社の非公開株が多いため、相続税の支払いで必要となる現金を確保するために加入したと」と代理人を通じて答えた。「手続きは任せていたので詳細は知らない」としたが、保険などの資産管理を目的とした女性名義の法人がバージン諸島にあり、この法人経由で保険契約が結ばれたとみられる。シンガポール旅行の際に、知人の勧めで現地の銀行が取り扱う保険に加入したのだという。

 こうした手法は、相続対策や資産運用の選択肢として雑誌やネット記事で紹介されている。保険業法の規制について断りつつ、「タックスヘイブンの法人を介したり、海外の現地に赴いて契約を結んだりすれば問題ない」とする記事もある。

 保険法の専門家は、「現地で契約しても法に抵触するが、海外の法人や信託を契約者としていれば、条文上は抵触しないと解釈できる」と述べる。但し、契約を日本の居住者や法人に移譲すれば、「法に抵触すると思われる」と解説している。

 金融庁の見解は、いずれの場合でも「実質的に国内の居住者が契約に関わっていれば、法律に違反する」というものだ。筆者(畑)らは取材の際、「違反する」と言い切る回答を少々以外に感じ、「議論の余地はないか」と念押しで確認した。担当者は「趣旨や事例は個別に検討する必要はある」としつつ、「条文に定められている」「実質が日本居住者なら当然潜脱という話になる」として、基本的に保留はつけなかった。実際に罰則(50万円以下の過料)が科された記録は把握していない。

 この条項に関する論文の中には、「業法」が保険契約者に罰則を科す規定自体を疑問視する主張も見られる。但し、違反した海外の生命保険会社に対して「2年以下の懲役若しくは 300万円以下の罰金」という厳しい罰則を設けても、日本の当局が外国企業に制裁を科すことは事実上不可能であり、契約者側にも罰則がなければ野放図になりかねないとの懸念も頷ける。

 専門家は、「仲介業者の詐欺に遭うことや、保険会社が倒産した場合にその国の制度によっては十分な補償を受けられないなどのリスクを指摘する。「大金持ちがリスクを背負い、時々損をするくらいならまだしも、小金持ちが手を出して被害に遭えば深刻な問題になりかねない」

 免許のない外国保険会社との契約の規制は、先進国では一般的だとされる。勿論、保険会社の安定性や保険商品の健全性を国が監視することの重要さは言うまでもない。だが、この規定が国内で営業する保険会社を守り、魅力的な商品開発を怠らせるだけの「セーフガード」と化してしまうのであれば、それはかえって富裕層にとっての海外保険の魅力をますます高める結果になってしむのではないかとも筆者(畑)は感じた。

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