Topics 歯科口腔領域におけるタバコの影響と禁煙支援をめぐる ⑥
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3) 新型タバコの口腔への健康影響
新型タバコは市場に登場してからの歴史が浅いことから、ヒトへの健康影響、特に長期的な影響についてのデータは現時点では不十分だが、有害性の情報が蓄積されつつある。
(1) 加熱式タバコ
加熱式タバコの口腔への影響については、現時点ではほとんど研究がみられない。加熱式タバコの使用は、紙巻きタバコと比較して、ニコチン以外の主要な有害化学物質の曝露量は減少するかもしれないが、有害化学物質の曝露に安全区域というものはない。また、タバコ関連疾患のリスクが、曝露量の減少に見合っただけ減少するかどうかは明らかではない。In vitro 研究では、ヒト歯肉上皮細胞への曝露の影響についての研究がある。日本のインターネット調査をもとに、加熱式タバコの使用自己申告の歯周病との関連を分析した研究では、加熱式タバコのみの使用、加熱式タバコと紙巻きタバコの併用のいずれにおいても有意な関連が認められた。
※ その関連性 日本のインターネット調査研究 (JASTIS 研究) からの報告では、回答者は一般住民 10,439 人。結果に影響を与えるファクターで調整した有病率比は、加熱式タバコのみを使用している者では 1.43 (95%信頼区間 1.03~1.62)、加熱式タバコと紙巻きタバコの併用している者では 1.55 (95% 信頼区間 1.20~1.99) を示し、有意な関連が認められた。
(2) 電子タバコ
加熱式タバコに先行して流行した電子タバコについては、口腔への健康影響の治験が蓄積されている。基礎研究では、エアロゾルの曝露によるヒトの歯根膜繊維芽細胞の増殖能の減少や、ヒト歯肉線維芽細胞に対する細胞毒性などが報告されている。韓国では、電子タバコの使用と CPI を指標とした歯周病との関連が報告されている。う蝕については、電子タバコのエアロゾルを S.mutans に曝露させた in vitro 研究において、S.mutans の歯面付着力やバイオフィルム形成の増加、エナメル質の硬度の減少が確認されている。この現象には、エアロゾル中の甘味フレーバー成分の影響に加えて、液体の粘性やニコチンも関与すると考えられている。
電子タバコと口腔がんについては、in vitro 研究において、電子タバコのエアロゾルが、頭頸部の扁平上皮癌細胞株において、発がんの危険性を高める DNA の損傷を引き起こすことが確認されている。口腔乾燥症やニコチン性口内炎、毛様舌、口角炎などの口腔粘膜病変は電子タバコ使用者には口腔にカンジダが多いという報告もある。
4) 新型タバコへの歯科界の動き
2021年9月、歯科医師を対象としたタバコ会社による加熱式タバコの広告・プロモーション活動の事例がみられた。日本歯科医師会はこれにいち早く対応、10月に「『加熱式たばこ』に関する現状認識」を都道府県歯科医師会会長あてに発信した。学会からは、11月に日本歯周病学会が「新型タバコ(加熱式タバコ)に関する見解」を発出した。2022年1月には、口腔分野の禁煙関連9学会が合同で「新型タバコ、特に加熱式タバコに関する注意喚起」を公表し、日本歯科新聞(2022/01/25、発行)に意見広告を掲載した。
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