人間と科学 第334回 転換期を迎えるエネルギーシステム(1) ④
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前述した長期目標についても、「2℃を十分に下回る」ことに加え「1.5℃に抑制する努力」とされた。これを受け、科学的知見を纏める IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「 1.5℃特別報告書」(2018 年) を発表、示されたのが、今世紀中ばでのカーボンニュートラル(吸収量と除去量を差し引いた「実質」排出量ゼロ)の達成だ。
続々と長期目標を引き上げた国々と足並みを揃える形で、日本も2050年までに実質ゼロを目指すことを宣言した(2020年10月)。純粋に科学からの見地のみならず、背景に国際政治・経済上の思惑も多分に反映しているともいえるが、新しい「ゲームのルール」が形成されてきたことを認識しておくことは重要である。
しかし、はたしてこの目標は実現可能だろうか。今では排出量の過半を占めるのは途上国であり、今後も大幅な経済拡大が見込まれる。これらすべて含めて世界で達成する手立てはあるのか。2020年には、コロナ禍により温室効果ガス排出量が「前例ないほど」(IEA) 減少した。世界規模で人人の活動が大きく制限されたことを考えると驚きはないだろう。それでも、減少の幅は 6%に留まり、翌年にはリバウンドした事実は示唆的だ。
本題であるエネルギー部門は、温室効果ガス排出量の 3/4 に関係する。あと 25年のうちに排出量を実質ベースとはいえゼロにするという目標を前に、抜本的な変容を迫られるのも当然といえる。例えば、石油があと何年採れるのかなど、化石燃料の枯渇問題につき耳にされたことがあると思う。それが今は、使われることなく、「座礁資産」化することも研究されている。一方で、定まった方向に一本調子に進むわけではなく、「グリーン時代初のエネルギーショック」(英エコノミスト誌、2021年10月号)、「化石燃料の逆襲」などと評価される事態も起こっている。
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