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2022年6月24日 (金)

デジタル・デモクラシー~監視広告を駆逐せよ~⑨

続き:

  揺らぐ「広告神話」

 略奪的で侵略的なターゲティング広告というビジネスモデルは、広告を出稿する側の企業にも変化を迫っている。ミネソタ大学カールソン経営大学院のヴェロニカ・マロッタ教授らが2019年に発表した調査では、ターゲティング広告はコンテキスト広告に比べ、4しか効果を引きだせないという。大きな効果も期待できず、ビッグテックに従属され、利用者からも反発を買うようなビジネスモデルは、企業の社会的責任という観点から見ても、また単に利益追求という論理からしても「わりに合わない」。そう気づき始めた企業が少しずつ現れている。

 例、全世界のティーンエイジャーに人気の SNS 「Pinterest (ピンタレスト)」は、2021年7月、減量に関係する広告を全面禁止すると発表。同社は以前から瘦身薬、減量の前・後画像、他人の体形をけなす行為などの公告を禁止していた。だが、新型コロナ・パンデミック発生後、若年層の間で不健康な食事習慣と摂取障害が急増した。ここには「ネガティブな自己イメージを植え付け、美しくなるための商品」を販売するターゲティング広告が関係していると全米摂食障害協会(NEDA) も指摘。こうした見解を受けての対応である。

 また、2020年5月、米国でジョージ・フロイド氏の暴行殺害事件をきっかけに、多くの企業や人権団体が Facebook にビジネスモデルの変更を迫った。Facebook は、ヘイト表現やレイシズム、気候変動否定論、そして公民権や人権を弱体化させるコンテンツや広告から利益をあげているとして、広告を引き上げたのだ。ここには、ザ・ノース・フェイス、パタゴニア、REI などの企業が参加した。

 さらにビッグテック側も、徐々に対応せざるを得ない状況が生まれている。2017年、アップルが提供するブラウザ「Safari」に、「Intelligent Tracking Prevention (ITP)」と称する機能が実装され、ターゲティング広告等に利用されているサードパーティー・クッキーに制限を加え、その後もアップデートが順次行なわれている。

 勿論、こうした動きはまだ点でしかなく、ターゲティング広告市場に痛いとも痒いとも与えてはいない。どこかの企業が広告を引き上げても、代わりの企業はいくらでもいる。インターネットビジネスが登場するはるか前の時代に作られた法律や規制を、いかに改定いくかを議会で論争している間にも、ビックテックは引き続き市場を支配し、中小企業も利用者もそれに従属させるだろう。

 しかし、侵略的で略奪的なターゲティング広告がもたらす様々な弊害が、ここ数年で各国の規制当局や利用者、企業にも、広く共有されたことは間違いない。「おかしいと思っているが、変えられないので仕方ない」という状況を打破するためにも、利用者だけでなく、広告を出す側の企業や広告代理店など広告業界の企業が、不公正なビジネスモデルの問題を語り始めることが重要でないだろうか。

 「ビッグテックのサービスが『不可欠』なのは、それが唯一の選択肢であることを確実にするために、限りない反競争的な行為が行なわれてきたからです。起業家には、それぞれの言い分があり、声を上げる理由があるからです。今、中小企業の経営者たちは、自分の生きた経験を共有し、ビッグテックと中小企業の本当の関係を明らかにすることで反撃しているのです」(アカウンタブル・テックのジェシー・レーリッヒ氏)

 

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