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2022年6月13日 (月)

デジタル・デモクラシー~小農民の権利を奪うデジタル農業~⑤

続き:

   大規模農家に有利なデジタル農業

 データを基盤とするデジタル農業は、世界の小規模零細農家の現実やニーズとはかけ離れている。無人走行のトラクターや農薬散布用ドローンなどは、小規模零細農家のために開発されているわけではない。デジタル農業によって、大規模農家と小規模零細農家との格差はさらに広がるとカルティーニ・サモン氏は言う。

 「土壌検査や圃場調査、収量測定などが定期的におこなわれたり、デバイス搭載のトラクター、ドローン、フィールドセンサーなどの新技術を導入するだけの経済力がある農場は、高品質でリアルタイムのデータを大量に収集できる。あるいは、年間を通して単一作物を栽培している圃場は、データもシンプルで収集が比較的簡単だ。ところが、小規模零細農家は、政府や自治体による改良普及サービスも殆ど無い地域にあり、圃場のデータ収集も行われていないばかりか、そのための技術導入する余裕もありません。このような状態で小農民がデジタル農業のアプリを使用したとしても、企業の求める『質の高いデータ』を大量に集められず、その見返りとして得られる企業からのアドバイスも必然的に質の低いものとなってしまいます」

 農家から収集したデータを処理・分析する際、そのでーたが大量かつ一定の質を保っていれば、AI・アルゴリズムによる分析の精度も上がり、農家へのアドバイスの質も高くなる。デジタル農業を推進する途上国も増えているが、一般消費者向けの 5Gやネット接続などのインフラには公的資金を投入されないことが多い。こうした状況のまま小規模零細農民がデジタル農業を中心とするシステムに動員されてしまえば、小農民は資材・機械の購入者や金融ローンの借り手として従属させられるだけの存在になりかねない。とシン氏は言う。

 「インドの小規模農家は、政府の最低支持価格が保証されていても、生きるために必要な収入を得られていません。過去数十年で、困窮した何千人もの農民が自殺しています。理由はさまざまですが、共通しるのは『借金』です。農民の約九割が、肥料や種子、農薬、その他設備にっかかる資金を金貸しに頼ります。貸金業者は、自分たちと関係のある企業の農薬や種子を買うことを融資の条件にするのです。これが今後、アプリ上で、巨大企業相手に行なわれるとなれば、どうなるでしょうか。インドの農業政策がうまくいっていると思っている誰もいません。しかし、だからといって、ビッグテックに農業・食品分野全体を開放してしまえば、さらなる搾取が起こり、生産の画一化が促進されるのではないでしょうか」

 私たちは日常的に、グーグル検索やFacebook など便利で無料のサービスを使う。その過程で私たちは、私たち自身についての様々なデータをビッグテックに提供する。データは私たちの行動を予測し、絶妙なタイミングでターゲティング広告を打ってくる。正にこれと同じ構図が農業分野でも起こっているのだ。

 デジタル農業は、日本や米国など先進国では「スマート農業」(ロボット、AIなど先端技術を活用する農業、農水省、2022)として農業現場への普及が目指されている。有機農業経験があり米国カリフォルニア大学サンタクルーズ校環境学科で研究中の松平尚也氏は「農業の多様な課題とスマート農業の方向性が合致していない」と指摘する。

 「農業は自然環境を生かし、多様な形で行なわれています。その一方でデジタル農業などの技術は、イノベーションばかりに焦点があてられ、農家のニーズに合った農業技術のデジタル化は進んでいないと感じます。その一方で、国はスマート農業の予算を増額し、新規就農者への機械購入費を増額しています。こうした政策が展開すると農家の機械投資が増大し、日本でも負債を抱える農家が増える可能性があります」

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