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2022年6月15日 (水)

デジタルデモクラシー~小農民の権利を奪うデジタル農業~⑦

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   データは誰のものか――デジタル・コモンズ

 多くの国で、デジタル農業を中心としたフードシステムのデジタル化が推奨されている。世界の開発の推進母体である世界銀行も、「デジタル農業は、効率的で環境的に持続可能かつ公平な農業・食料システムを構築し、持続可能な開発目標(SDGs)達成に貢献する」とのお墨付きを与えている。推進者は、デジタル化の波に誰もが抵抗できないよう、次のように語りかけてくる。

 「新しい技術は、すべての人に恩恵をもたらします。農家が携帯電話のアプリで土壌の肥沃度や作物の健康状態について学ぶことに、誰が反対できるでしょうか?農産物の販売先である市場や消費者と、より直接的な関係を提供するデジタル・サービスに反対ですか?」

 しかし、小規模農家たちが、提起しているのは、こうしたレトリック――農民に新たな技術が必要かどうかという問題ではない。新たに登場する技術の中で、得られたデータは誰のもので、誰が管理すべきものなのか。それが地域の発展につながるものなのか。技術は誰の、何のためにあるのか。それを問うているのだ。

 ビックテックへの依存の連鎖を断ち切るために、世界のあちこちで小さいながらも注目すべき取り組みが始まっている。例えば、小農民の世界的コミュニティである「ファーム・ハック」は、農機具の製造や改良についての情報をオンライン上で無料公開する。新しいIT企業の中には、クラウドソースによる非独占的な情報交換や研究へのシフトを推進し、地域内はもちろん、世界中の小規模農家や加工業者と農業技術の情報を共有する企業もある。

 新型コロナウィルスの感染拡大によって流通が麻痺すると、農家自身がSNSやEコマースなどのデジタル・ツールを使い農産物を消費者に届ける助け合いの市場が多くの国で生まれた。インドのカルナタカ州では、農民がツイッターを利用して農産物の収穫情報を投稿し、買い手と直接売買した。ブラジルでは食品流通は大規模スーパーに集中し、小規模農家は参入されない。コロナ禍の中、小農民の運動体がタクシー運転手の協同組合や消費者グループと共に、インターネットを使った流通システムを組織した。「インフォ・バスケット」と呼ばれるこのしくみは、生鮮食品を中心に週平均300の食品バスケット(特に生鮮食品)を、リオデジャネイロとその周辺地域の約3000人の消費者に現在も届けている。集荷や配送などの「中間」の仕事を担うのは、約40の「農民生産ユニット」だ。

 松平氏は言う。

 「デジタル農業と一口にいっても、その技術は、大規模資本の影響が大きい現状がある。米国も日本も農業者の約9割は家族農業で、多様な形で農業が続けられている。必要なのは、デジタル農業社会における農家の主権ではないか。ここでの主権とは、農家がそれぞれの農業の現場で技術を選ぶという、『技術主権』の考え方でもある。こうした視点は、アグロエコロジーとして国連でも注目されている」

 技術主権を含めた、地域のイニシアティブによるビッグテックへの対抗は簡単ではない。殆ど不可能にも思える。だが、それでも私たちの目指すべき方向性の答えは出ている、とサモン氏はいう。

 「ビッグテックによるシステムは、既に、多くの問題がある世界の食料システムの中で、輪をかけて複数の危機の中に私たちを深く追い込みます。それとは真逆ので、輪をかけて複数の危機の中に私たちを深く追い込みます。それとは真逆のビジョン――農民、漁民、小規模小売業者、路上の食品販売者、農業労働者など食料の生産と流通に関わる人たちによる民主的で多様な参加と、知識・情報の共有化こそ鍵です」

 最後に、インド新農業法の顛末は、

 農民たちの大規模な反対運動はその後も続き、2021年1月、最高裁判所は「農民の理解を十分に得られていない」として、新農業法を一時的に停止する措置を講じた。モディ首相は「新農業法を撤廃する」と宣言。小規模零細農民の権利を脅かす新農業法案は、農民たちの抵抗によって葬り去られた。

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