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2022年6月 7日 (火)

デジタル・デモクラシー~ロビイストから民主主義を取り戻す~⑦

続き:

  新たなロビー戦略――「物語をリセット」する

 2020年10月、フランスのメディア『ル・ポワン』(Le Point) が、あるリーク文書について報じた。「DSA に対する60日計画・更新版」とタイトルされたこの文章は「機密・関係者のみ」とされていた。文書の出所は、グーグルだ。

 DSA とは、デジタル・サービス法のことで、2020年12月に欧州委員会が発議し、現在、欧州議会で審議されている法案。この法案はデジタル市場法(DSA)案とセットで準備され、2つの法案によってデジタル市場の透明性の向上や独占の規制、プライバシーの権利の確保などを目指す。ビッグデータとAIによるターゲティング広告なども包括的に規制しようとするこれらの法案は、正に「史上最強のビッグテック規制案」と言える。この規制案が国際基準になる可能性もあるため、世界の規制当局も注目する。

 リーク文書の中身は、2法案に対するグーグルの「秘密の攻撃計画だった。欧州のNGO経由で筆者(内田)もこの文章を手にしているが、最初の数ページには DSA の概要や論点(特にグーグルに直接関係する項目や課せられる義務)がまとめられている。それに続く「60日計画」では、グーグルのビジネスモデルに対する「不合理な制約を欧州委員会の提案から取り除くこと」が目的に挙げられている。つまりはDSAはの内容を骨抜きにせよ、と言うこと。sのための具体策として、「効果的なコミュニケーションを通じて、DSAの政治的物語をリセットする」「貿易問題として、米国政府および大西洋地域の同盟国を動員する」「DSAがインターネットの可能性をいかに制限するかを示す」などが列記される。計画の最大のターゲットは、法案策定の中心人物である欧州委員会のティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)だ。「SNSやブロブの発信」「You Tube の『声』の利用」「既存メディアにはグーグルの主張を載せた記事を書かせる」、更には「他のテック関連企業を『同盟』にして同調させる」等など、事細かなメニューが書き込まれている。

 貿易紛争やメディア操作など一企業が仕掛けられる範囲を大きく超えるこの「作戦」に、欧州議員や政府関係者は衝撃を受け、怒りも広がった。米国メディアも自国内の規制の議論と重ね合わせる形で批判的に報じたが、日本での報道は一切なしだ。

 この文章から、ここ数年のビッグテックのロビー戦略の変化が読み取れるとマックス・バンク氏(前出 ロビー・コントロール)は言う。

 「2018年、個人データやプライバシーの保護に関して、より厳格なEU一般データ保護規則(GDPR) が施行されました。ここが一つのターニングポイントです。それ以前、ビッグテックは『規制やルールなど必要ない。我々自身が対処できるから自主規制すればよい』という主張だった。しかしGDPR施行後、彼等の言説はガラリと変わりました。『規制やルールはもちろん必要だ。私たちは政策立案者とパートナーシップにもとづき行動する』というように、

 しかし、実は裏でやっていることは相変らず同じで、自らのビジネスモデルを侵害しない範囲でなら従ってもいい、と言っているのです」

 欧州でも米国でも、ビッグテックへの規制論は、世論の後押しもあり、加速の一途だ。米国では共和党・民主党の双方から「ビッグテック解体論」も出ている。こうした中、以前のように「規制はいらない」と主張すれば猛反撃を受けてしまう。そのため、表向きには規制を受け容れる姿勢を取りつつ、その内容を骨抜きにする――この戦略を進めるために彼らは「効果的な三つのナラティブ(物語)」を繰り返し使うのだとバンク氏は言う。

 「まずは、『ビッグテックは問題解決のための“かけがえのない存在”です』というもの。裏を返せば、規制されればイノベーションが阻害されるという意味です。次に『私たちは、中小企業と消費者を守っています』。そして三つ目が『中国の脅威』です。三つとも規制の議論の本質をずらすものですが、あの手この手で繰り返し語られると正しいことのように受け容れられてしまうのです」

 

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