« Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~③ | トップページ | Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~⑤ »

2022年7月 8日 (金)

Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~④

続き:

5. 細菌の進化に対抗した創薬戦略

 以上のように、肺炎球菌は類縁の細菌の遺伝子を取り込むことで、従来から考えていたよりも効率的に外部環境の変化に対応する変異を獲得していると考えられる。莢膜多糖を抗原とするワクチンや抗菌薬の有効性が今後低下していく可能性は十分に考えられる。我々は、細菌の進化に対抗した創薬戦略として、分子進化解析の手法を用いて細菌の進化上変更することが許容されていない病原因子を探索している。

 従来の方法では、菌の生化学的性質をもとにした原因分子のスクリーニングや、既存の分子とアミノ酸配列に相同性のある分子を標的として解析を行うといった手法が取られてきた。このような手法から多数の病原因子が同定されてきたが、解析に必要な時間とコストは高く、また期待した成果が得られないことも多かった。これは、解析前に、標的とした分子と病態との相関関係を検証することが技術的に不可能であったためである。

 我々は、実際にヒトに分布している病原細菌から得られたゲノム情報から、進化の選択圧を評価することにより、金の生存と相関している分子を検出するアプローチを試みた。遺伝子情報に加えて、そこからコードされるアミノ酸情報を併せて取り扱うことで、相関関係だけでなく、一定の因果関係も担保される。従って、従来の情報解析の手法よりも高い精度で、重要な病原因子を検出可能にするものである。

 解析対象として、肺炎球菌の菌体の表面に局在するタンパク質群に目を着けて、分子進化解析を行った。菌の表面にあるタンパク質は、外部の環境の影響を受けやすいため、多様化しやすいと考えられる。また、薬剤標的として考えた場合に、薬剤が作用しやすく、標的として好条件であると言える。

 分子進化解析の結果、肺炎球菌の主要な病原因子の一つとして知られている自己融解酵素 LytA、シアル酸分解酵素 NanA、ガラクトース分解酵素 BgaA、さらに詳しい機能が分かっていなかった CbpJ の 4 つが、特に進化上変異が制約されている割合が高いことが示された。そこでまず CbpJ について、細胞や動物を用いた感染モデルでの実験を行った。その結果、これまで病原性に及ぼす影響が明らかとなっていなかったタンパク質 CbpJ が、肺炎球菌の肺感染時の病原因子として働くことを明らかにした。

 次に、糖鎖分解酵素としての役割は明らかになっているが、病原性に果たす役割が不明であるβ―ガラクトシダーゼ BgaA に着目し、解析を行った。bgaA 遺伝子について分子系統解析を行ったところ、他のレンサ球菌種では、一部の株が bgaA 遺伝子を持ち、かつ多様性があるのに対して、肺炎球菌はほぼすべての株が bgaA 遺伝子を持つとともに多様性が低いことが示された。さらに、BgaA において進化的に異変が制限されている部位に着目したところ、ループ構造上のプロリン残基が多く存在。ループ構造は、αーヘリックスやβ―シートなどの二次構造をつなぐ部分で比較的自由な構造を取る場合が多い。しかし、プロリンは、他のアミノ酸と比較して主鎖が取れる角度が厳しく制限された硬い構造を取り、構造の自由度を下げる。即ち、タンパク質の構造の安定性に寄与している分子の変異が制限されていると考えられる。加えて、酵素の活性中心を構成する残基についても進化的な保存性が高く、活性中心の崩されない変異が選択されていることが、示唆された。また、マウスを用いた敗血症モデルの実験から、 BgaA が肺炎球菌の血液感染時の病原因子として働くことを明らかにした。

 現在、我々はこれらの分子が肺炎球菌に対する新たなワクチン抗原となりうるか、またこれらの分子に対する低分子阻害剤が感染制御につながる薬剤となりうるのかの検討を行っている。

 

« Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~③ | トップページ | Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~⑤ »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事