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2022年7月 9日 (土)

Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~⑤

続き:

終わりに

 技術の進歩により大量のゲノム情報が入手可能になり、これまで不可能であった水準で細菌の進化の詳細が明らかになりつつある。大量のゲノム情報が入手可能になった背景には、複数の分野の急速な技術発展がある。特にゲノム解読は生命科学の発展の鍵となる技術で、激しい国際競争状態にある。ゲノムシーケンサーの開発と生産は、長らくアメリカ illumina 社やスイス Roche 社、イギリス Oxford Nanopore Technologies 社などの寡占状態であった。一方で、中国の華大智造(MGI) 社は2013年にアメリカのシーケンサーメーカーを買収し、2019年にゲノムシーケンサー DNBSEQ-T7を発表した。DNBSEQ-T7 は、10億塩基対当たりの解読コストが約 5 ドルという、それまでのシーケンサーの数倍のコストパフォーマンスを示し世界に衝撃を与えた。

 ゲノムシーケンサーの解読能力は現在も急速に発展しており、日々大量のゲノム情報や RNA の発現情報などが解読されている。例えば肺炎球菌は20000株以上のゲノムが解読され、情報が公開されている。しかし、実際に病原微生物について大量のゲノムデータを収集して解析するには、臨床医の協力、次世代シーケンサーによる解析、大規模情報を解析するプログラムと強力な計算資源、得られた解析結果を生命科学に照らし合わせて解釈する能力が必要となり、一人の研究者がすべてに対応するのは極めて困難だ。現在は各分野の技術を備えた人材を確保し、専門の解析部門を設置する研究機関が増加している。

 次に、大規模解析を行う計算資源として、日本のお家芸とも言えるスーパーコンピュータシステムが挙げられる。理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」は、2021年11月に、3つの指標において4期連続で世界一を達成した。他にも旧七帝大に加えて、東京工業大学、筑波大学、産業技術総合研究所、海洋研究開発機構、遺伝学研究所など複数の国立研究機関がスーパーコンピュータを運用している。なお、大阪大学のサイバーメディアセンターでは、日本電気が納入したクラウド連動型 HPC・HPDA用新スーパーコンピュータシステム「SQUID」を 2021年5月から稼働開始している。スーパーコンピュータ以外の計算資源としては、Amazon 社や Microsoft 社などが展開しているクラウドコンピューティングサービスが挙げられている。これは、インターネットを介して計算を行い、利用したメモリ、CPU、記憶容量などに応じて料金を支払う仕組みとなっている。

 近年は、このような得られた大規模な情報を生命科学に照らし合わせて解析する。バイオインフォマティクスと言われる技術を持った人材の重要性が増している。特に医療分野では、情報解析の技術だけでなく、生命科学の原理や病態に対する理解が必要となる。今後は大規模の生命科学情報の収集と、計算資源、情報解析技術およびそれらに関連する人材確保についての国際競争が激化すると予測される。

 大阪大学では、2022年より生命科学系の各研究科と附置研究所の連携に基づくバイオインフォマティクスプラットフォーム構想を開始、医療イノベーションの世界拠点としての体制を整えている。最先端の科学技術を駆使し、これまでは解析が不可能であった生命原理を明らかにし、疾患の予防・治療につなげていきたい。

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