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2022年7月 7日 (木)

Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~③

続き:

4. 胸膜遺伝子の取り込み~100番目の新たな莢膜糖鎖の誕生~

 肺炎球菌の莢膜型については、従来の結成を用いた莢膜膨化法に基づく研究により、90種類の血清型が同定されてきた。モノクローナル抗体と遺伝子スクリーニングにより、2007年の血清型6C の発見を皮切りに、9種類の新しい血清型が発見された。現在認可されている肺炎球菌ワクチンは、ワクチン導入前に分離頻度が高かった。莢膜型に対する抗体を誘導する。誘導された抗体は、基本的にワクチン標的の莢膜を発現する肺炎球菌に対してのみ防御効果を発揮する。肺炎球菌はワクチンに含まれない型の莢膜多糖を新たに産生してワクチン効果を低下させうるため、新規血清型の莢膜の出現とその出現機序を追跡することが重要である。

 2020年に Ganaie らは、肺炎球菌の 100番目の莢膜血清型 10D を報告した。10D という名称は、血清型 10A と血清学的に交差反応を示し、10A 型莢膜多糖の免疫に反応して、交差ォプソニン抗体を出現させることに由来している。Ganaie らによる遺伝子解析の結果、10D型の莢膜合成遺伝群は、血清型 6C、血清型39および口腔レンサ球菌(S.mitis SK145株)の莢膜合成遺伝群と遺伝子が同じ順番で配置されている(シンテニック)、相動性の高い 3 つの大きな領域を有していることが判明した。SK145と遺伝子が同じ順番で配置されている10D型の莢膜合成遺伝群領域は約 6000 bp で、5’未満に WciN α 遺伝子の短い断片を持つ。この機能しない wciN α 断片の存在は、口腔レンサ球菌から肺炎球菌へ種間遺伝子の移入を示す有力な証拠となる。

さらに、10D型の莢膜合成遺伝群の 1つである wcrO10D の配列は、2oooo株以上の肺炎球菌の莢膜合成遺伝群の配列が決定されているにもかかわらず、血清型33C、34、35F、36の wcr遺伝子と低い相同性(40~50%のアミノ酸同一性)を持つのみである。一方、wcrO10Dは、S.mitis SK145 株の莢膜合成遺伝群の 1遺伝子(RS00925) と、驚くほど高い相同性 (94%のアミノ酸同一性)を示している。これらのことから、100番目の莢膜血清型10Dは、肺炎球菌が S.mitis の遺伝子を取り込むことにより誕生したと考えられる。

 口腔レンサ球菌には、ミティス群だけでなく、肺炎球菌の莢膜合成遺伝群に似た遺伝子座を持つ種が多く存在している。肺炎球菌ワクチンの使用は、肺炎球菌による口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込みをぞうかさせ、ワクチン耐性株を生み出すのではないかと考えられている。さらにもう一つの可能性は、肺炎球菌ワクチンが、肺炎球菌と似た莢膜を持つ口腔レンサ球菌にも選択圧をかけ、ワクチン以外の莢膜型に変異させることである。

 肺炎球菌の莢膜型の多様性は人類の健康に対する大きな脅威であり、多様性の供給源が問題を助長する。Ganaie らは、肺炎球菌ワクチンの長期的な使用戦略には、肺炎球菌だけでなく、口腔レンサ球菌の血清型に関する知識の向上が必要であるとしている。

 

 

 

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