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2022年7月 6日 (水)

Science ~肺炎球菌は口腔レンサ球菌の遺伝子を取り込んで耐性化する~②

続き:

1.肺炎球菌とは

 肺炎球菌は、グラム陽性のレンサ球菌で、16S rRNAの塩基配列による分類で口腔レンサ球菌の一種であるミティス筋群に分類される。肺炎の主な原因である一方で、健常な小児の口腔からもしばしば分離される。胸膜多糖の抗原性の違いにより、100種類の血清型に分類。

 また肺炎球菌は、遺伝子の本体が DNA であるということを証明する、今日の遺伝学や分子生物学の基礎となった重要な 2 つの実験に用いられた菌であり、外来の遺伝子を取り込む能力が高いことが知られている。現在明らかとなっている肺炎球菌が外部の遺伝子を積極的に取り込む機構(図:略)がある。肺炎球菌は、外部の環境からのストレスなどを感知、自身の遺伝子発現を変化させる。その結果、DNA と結合する長い線毛を発現させ、外部の DNA を細胞膜近くに引き込む。さらに DNA 分類酵素によって、二本鎖 DNA を一本鎖 DNA にした後にトランスポーターを介して菌体内に取り込むことが明らかになっている。

2. 口腔レンサ球菌の系統

 口腔内には700種類以上の細菌が存在。そのうちレンサ球菌属の割合が最高。レンサ球菌属は、大きく 6 種類のグループに分けられるが、口腔レンサ球菌はミュータンス菌群、ミティス菌群、サリバリウス菌群、アンギノーサス菌群の 4 群である。ミティス菌群には、Streptococcus mitis や Streptococcus oralis などが含まれる。

 進化系統分類上、S. mitis と S. oralis は、ミティス群の中でも特に肺炎球菌に近い。また、ミティス菌群は一般的に歯面や歯肉縁上プラーク、舌背、歯肉溝など広く口腔内に常在しており、う蝕誘発性はない。肺炎球菌は多様なレンサ球菌から遺伝子を取り込んでいることが示唆されているが、系統の近い S.mitis や S.oralis の遺伝子を取り込む頻度が高い。

 口腔レンサ球菌を利用した薬剤耐性化と新たな莢膜糖鎖の獲得について、次に説明する。

3. 耐性遺伝子の取り込み

 肺炎球菌性肺炎においては、ペニシリン系抗菌薬が第一選択薬として用いられている。ペニシリンなどの β―ラクタム系抗菌薬は、細菌の細菌壁合成に関わるペニシリン結合タンパク質(PBP) に結合して、細胞壁合成を阻害することで抗菌作用を示す。

 肺炎球菌や常在性のミティス群レンサ球菌のβーラクタム系抗菌薬体制は、3つのペニシリン結合タンパク質、PBP2x、PBP2b、PBP1aに異変が蓄積することで発現。異変によってペニシリン結合タンパク質に対する薬剤の親和性が低下するため、薬剤存在下では変異を獲得して体制を示す菌体が生存に有利となる。Jensen らは、肺炎球菌のβーラクタム系抗菌薬耐性の獲得に、口腔レンサ球菌と肺炎球菌相同組換えがどの程度関与しているかを明らかにするため、常在性の口腔レンサ球菌の pbp2x 遺伝子 107 株、pbp2b 遺伝子 96 株、pbp1a 遺伝子 88 株のトランスペプチダーゼ領域のDNA およびアミノ酸レベルにおける多様性を調査した。その結果、S.mitis、S.oralis、Steptococcus infantis の感受性株のいずれにおいても、pbp遺伝子の自然変異によって生じた多型部位が 39%に達することが判明した。

 一方で、肺炎球菌の場合は耐性株のみが広範な配列変異を示した。即ち、常在性のミティス群レンサ球菌にて過去に多様化した配列を、抗菌薬による選択圧によって肺炎球菌が取り込んだことが示唆された。

 常在性のミティス群レンサ球菌では感受性株と耐性株の両者で配列の多様性が高く、肺炎球菌では耐性株でのみ多様性が高いことから、常在性のミティス群レンサ球菌ではペニシリン結合タンパク質の変異の負担は少なく、肺炎球菌では負担が大きいと考えられる。

 つまり、S.mitis と s.oraris は肺炎球菌よりも耐性化による増殖効率の抑制が弱く、βーラクタム系抗菌薬の使用による選択圧が生じた後も、これらの菌が耐性化した遺伝子を保持して、肺炎球菌への供給源として機能している可能性がある。

 また少数のケースでは、肺炎球菌から S.mitis および S.oralis への相同配列の移入の可能性が示された。常在性のミティス群レンサ球菌から肺炎球菌へと遺伝子が広がる割合が高いが、完全な一方向で遺伝子が広がるのではないと考えられる。

 さらに、以前に肺炎球菌のβーラクタム薬耐性と統計学に相関することが示されたアミノ酸変異の多くは、耐性の直接の原因ではなく、ドナー株である常在性のミティス群レンサ球菌が偶然持っていた変異であることが示唆された。つまり、耐性化した肺炎球菌は、口腔レンサ球菌の配列の特徴を持っているということだ。これらの結果は、肺炎球菌が利用するβーラクタム薬耐性のザーバーとして、常在性のミティス群レンサ球菌が重要であることを明確に示している。

 

 

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