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2022年8月29日 (月)

サイバー空間の新技術はどこから犯罪になるのか ⑦

続き:

      技術と法とのあるべき関係とは

 こうした萎縮効果は可能な限り除去することで最適化する必要があるが、新しい技術が問題となる局面においては特に、技術と法律のあるべき関係をも考える必要がある。社気は常に、技術発展の後を追いかける形で、普及しつつある技術に対する評価を行う。法的判断も社会的評価の一つであるが、刑事裁判における有罪の判断は、被告人に犯罪者のレッテルを貼って苦痛をも与える点で劇薬。

 社会的評価が定まっていないのに、判断を迫られたときには、特に慎重に判断しなければならない。Winny 事件もコインハイブ事件もそのような事件だった。

 ここで、法規制の内容を技術者からみても透明なものにしておけば、未然に逮捕・基礎を防ぐことができるとはいえるかもしれない。Winny 事件で使われた幇助犯の規定はサーバーに特化したものにないため、抽象的でも仕方がない面はあるともいえるが、不正指令電磁的記録に関する罪については、サイバーセキュリティに関係する技術用語を法律に書き込むのも、規制範囲を透明性の観点からは意味があるようにみえる。現にアメリカのサイバー犯罪対策のための法律(Computer Fraud and Abuse Act, 18 U.S.C. 1030)においては、そうしている部分がある。

 こうすることで、エンジニアやユーザーへの委縮効果を除去しつつ、エンジニアらの意見を採り入れたプラクティスの形成も容易になるかも。しかし、日本では、刑事法の世界では刑事法特有の言葉遣いが採用されてきた。必ずしも刑法の趣旨と一致しない分野での専門用語だとうまく刑事法の条文に落とし込めないかもしれない。適正な処罰という観点からは刑事法の趣旨目的に沿った専門用語を用いること自体にも意味はある。

 また、法改正には重い手続的負担がのしかかるので、法改正は言うは易く行うは難し、である。機動的な改正というのも考えづらく、細かく法律を作るとすぐに時代遅れになるし、抽象的に法律を作ると規制範囲がわかりにくくなる、というトレードオフの問題もある。

 筆者(西貝)は、サイバー犯罪の領域ではアメリカのように、技術用語も用いる規定にすることも将来的にあり得るのではないか、と考えているが、すぐの実現は難しい。のかもしれない。

 

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