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2022年8月 3日 (水)

TOPICS 事例から学ぶトラブル予防と早期解決の方略 ④

続き:

2. 事例 2(応招義務)

1) 事案の概要

 初診患者が、検査の拒否と自己診断に基づく治療を要求。患者が希望する治療を行うことはできない旨伝えたところ、違法な応招義務違反に当たるのではないかと威喝した。ひとまず次回の予約を入れて帰ってもらった(防犯カメラ・録音なし)。

2) 当事務所への相談後の経過

 患者は予約日に来院。院長が、適切な診断や診療を行うために検査が必要であること、歯科医師が不適切と考える患者の希望する治療を行うべき法的義務はないこと、信頼関係が構築できていない状況で適切な医療を提供できないことを伝えたところ、患者は医院を後にする(その録音あり)。その後連絡なし。

3) ポイント

(1) 応招義務の意義

 歯科医師以外の者は歯科医業を行うことができないため(歯科医師法17条)、歯科医師が何の制限もなく診療を断ることができてしまうと、国民は適切な歯科医療を受けられなくなる可能性が生じてしまう。そのため、患者の利益保護の観点から、原則として診療拒否ができないとしたものが応招義務である(歯科医師法19条1項)。

(2) 正当な事由

 一方で、すべてのケースで診療拒否できないと、かえって適切な医療を提供できなくなることもあるため、正当な事由がある場合には、診療拒否できるとされている(歯科医師法19条1項)。

 正当な事由は、様々な事情を考えて総合的に判断されるが、最も重要な考慮要素は、緊急対応の要否(病状の深刻度)である。その他、診療時間・勤務時間内であるか否か、信頼関係の有無なども考慮される。

 例えば、患者が「怒鳴る」、「脅す」、「暴力を振るう」、「不当に居座る」など、患者の過度な迷惑行為がある場合には、正当な事由が認められやすい。

 なお、発熱や上気道症状を有していることのみを理由に、診療拒否することは正当化されないが、新型コロナウイルス感染症など、制度上、特定の医療機関で対応すべき感染症の疑いのある患者については、適切な医療機関等を紹介・受診勧奨を行うことで、診療拒否が正当化されることもある。

(3) 患者の自己診断

 患者の自己決定権は、憲法上保障された権利として尊重すべきものである(日本国憲法13条)。もっとも、医療は高度の専門性を有するものであるから、歯科医師は、医学的に適切な医療行為という枠内で広範な裁量を持っており、患者の意思に絶対的に拘束されるわけではない。そのため、歯科医師自身が不合理で不適切であると考える内容の医療行為を患者が希望しても、自らの考えを変えてまで患者が指示する通りの医療を提供する義務はない。

(4) 応招義務違反による責任

 応招義務は、法律上、患者に対して負う義務ではなく、医師・歯科医師が国に対して負う公法上の義務である上、違反に対する罰則規定もない。もっとも、応招義務違反によって患者に損害を与えた場合、民事上、損害賠償責任を問われる可能性がある。また、歯科医師としての品位を損するような行為(歯科医師法7条1項)と見なされるような義務違反が繰り返しなされるような場合には、行政処分の対象になる可能性もある。

 

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