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2022年8月25日 (木)

サイバー空間の新技術はどこから犯罪になるのか ③

続き:

   ソフトの開発・提供が犯罪の幇助にあたるか

 幇助犯についての従前の警報理論をみると、正犯を鼓舞する場合も、正犯の犯罪遂行を万全にするために見張りをする行為(心理的促進という)も幇助になり得るとされていた。もっとも、プログラマーと正犯との間にこうした関係はなかった。一方で、正犯に犯罪遂行に役に立つ武器を提供する場合(物理的促進という)も幇助犯になり得るとされていた。今回は、プログラマーが Winny を開発・提供し、これを正犯が利用して公衆送信権侵害がおこなわれたわけである。従前の刑法理論からすると、この物理的促進の場合に素直にあてはまり、プログラマーは幇助犯の責任を免れないようにも思われた。

 しかし、Winny の開発・提供を処罰すべきか、については法廷で厳しく争われた。まず、Winny は、違法にも適法にも利用され得るツールであって、面識のない利用者がどのように利用するかについて、開発・提供者の方でガイドするにも限界があった。そもそも新しい技術的仕組みであったため、どのような利用方法をすべきかということを開発者の方で強く誘導できなかったといえる。一定の割合で違法に利用する者が出てくることは開発・提供者の方でも認識していただろう。

 しかし、多数の Winny 利用者のうち、違法利用した者を一人見つければ、開発者が幇助犯にんる、となるのなら、違法利用されるかもしれない道具を提供することなど怖くてできなくなる。そもそも、従前の理論は、一人の幇助犯が一人の正犯を支援する場合を想定していたといえる。面識さえない不特定多数の人に新しいプログラムを提供する場合において、提供されたものが使われたら即幇助犯になるという従前の理解をそのまま適用することに躊躇すべき事案だったわけ。

 もっとも、躊躇といっても、従前の理解も一つの理論であるから、それを塗り替える理屈(オーバーライドすることを正当化する理由)が必要であり、それに失敗したら、なお従前の理論を適用することになり、有罪になる。現に一審の京都地裁(京都地判平成18年12月13日刑集65巻9号1609頁)は有罪判決を下した。

 しかし、二審の大阪高裁と最高裁は、従来の理論とは別の考え方を採用して無罪の結論を指示した(大阪高裁平成21年10月8日刑集65巻9号1635頁最決平成23年12月19日刑集65巻9号1380頁)。

 

 

 

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