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2022年8月26日 (金)

サイバー空間の新技術はどこから犯罪になるのか ④

続き:

 最高裁は、相当多くの割合の利用者がWinny を違法に利用している等の事実から、例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開、提供行為であったとしても、開発者(被告人)の行為は違法だと評価したものの、開発者は、右の状況を認識・認容してはおらず、故意はない、としたのである。「違法」という言葉遣いには、刑法上、Winny の提供は悪いことであったという合意がある。Winny 事件を知っている者が同じようなことをしたら、故意が肯定されて有罪になるかもしれない。

 これまで、何らかの物を実行犯(正犯)に提供して、それを実行犯が犯罪に利用した場合、一連の事態の推移についての認識もあることを前提として、幇助犯の成立を認めてきたものと思われる。しかし、例えば、包丁販売店が売った包丁が殺人に使われたことのみをもって、販売した者が殺人幇助として検挙されるような事案はなかったように思われる(包丁事例)。最高裁の述べた右記の不特定又は多数に者へのものの提供についての「例外的とはいえない範囲」か否かのルールは、包丁事例が幇助犯にならないことをも説明できそうである。即ち、包丁を提供する金物屋は、自身が売った包丁が殺人事件に使われた場合に、売却時にある一定の割合の者(例外的な範囲の者)は売った包丁を使って殺人をするのかもしれない、とおもっていたとしても、逮捕も起訴もされない。その理由は、幇助犯が成立しないからだ。成立しない理由は一定の割合の者が出てきてしまうのは防ぎようがないから、そのような割合でしか違法利用者が現れないような提供行為は幇助ではない、と考えるべきだからだ、と、いえるかもしれない。

 もちろん、Winny は開発途上のプログラムであったから、最高裁の考え方はソフトウェア開発の局面にのみ使えるものである、と読むことも可能。が、判例の理論は、不特定または多数の者への犯罪利用可能なものの提供という共通の特徴を持つ事案において、包丁事例を含める形で、展開されたものとみることも可能であろう。

 Winny 事件では、Winny が数多くの違法利用者を生み出してしまった点において、包丁事例と違ってその提供は違法だとされたが、一方で、包丁事例と異なり、新しいツールであったこともあり、Winnyを著作権侵害のために利用しないように求める書き込みをしていたこと等を理由に故意がないと判断されたということができる。

 幇助犯の規定は、サイバー空間だけでなく、物理世界の事案にも当然に適用される。それゆえ、物理世界の事案を類推の対象として想定することも許され、結論が決まっている既存の事案(包丁事例)との比較をすることにも意味があり、包丁事例を梃子にして処罰範囲を限定する理論を導くことが可能だった。一方で、サイバーの世界のみを対象にしている条文にになると、物理世界との間の類推で考えるのが難しい。これに関連し、次にコインハイブ事件をみてみよう。

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