HIV 陽性者を歯科医師が診るということ ⑨
続き:
「6. S歯科クリニック(東京)」の続編です。
Q. HIV 陽性者の診療受入れあたっての支障、問題はあった? また、それへの対応は? 今でも続けている配慮は?
陽性者の診療拒否の根底は、「エイズいかかったら死の病だから怖い」という事でしょう。エイズに対する偏見もあると思う。関り合いたくない…が本音かな?
歯科における感染対策は、コロナ禍でも歯科医院での大規模なクラスター発生はない、という事で評価されている。コロナは飛沫感染、HIV は血液媒介感染、と感染経路が全く違い、HIV の方がはるかに感染力は弱いですよね。そういう理解に基づいて、グローブ、マスク、ゴーグルをしていればまず感染しない。そんな基本形から、感染対策を考えて行くといろいろな診療場面で、疑問を生じる訳。 ユニットおラッピング?そんなことやってる時間もないし人手もない。患者の目の前でしっかり清拭した方がよっぽど楽で、患者受けもいいでしょう。清拭はスタッフの仕事で、スタッフには「陽性者の治療のすぐ後で自分が治療を受けるとした時に、安心できるように清拭するにはどこをどのようにしたら安心できるかかんがえて!」と言っている。
もう一つ大きな問題が、「風評被害」の問題です。THDN では、メンバーの診療所に来院されている患者さんにアンケート調査を行ったことが有りまsが、患者さんには予想していたよりはるかに好意的に捉えていた。
エイズ患者さんを歯科医療している事は素晴らしい、感染対策をしっかりされているので安心して通院します、という意見がほとんどだった。すべての患者が理解しているとはおもいませんが、理解できない人は来院されなくても良いと思っている。
Q. HIV 陽性者の診療受入れにたり、スタッフの感想等は
開業当初の歯科衛生士とのやり取りの記憶あらですが、もし万が一、スタッフに感染させたらいけないと思い、診療時の介助は当時診療を手伝ってくれいた私の家内(薬剤師)でした。スケーリングも歯科衛生士にさせませんでした。ある日、急患等で忙しくしていた時、私が陽性者のスケーリングをしようとしていたら、その歯科衛生士から「「スケーリングだったら私がやりましょうか?」との申し出があった。「感染者だよ!?」「分かっています、大丈夫です」と言ってくれました。涙でしたね。あとから聞いたら、「先生のやっている事を見て、先生からもエイズに関して話を聞いていたし、それに忙しそうだし、大丈夫だと思ったので」と言っていた。
私は大感激!素晴らしい歯科衛生士に出会えたことを神に感謝!。その後は、採用面接には「エイズ患者さんも来るけど、それでもいい?」って感じで納得してくれる人を採用しているので、スタッフとの間で問題になった事は無い。HIV 感染症について教え、淡々と健常者と変わららずに治療する姿を見せていく事が大切です。
Q. HIV 陽性者の受入れをしていることを、他の患者は知っていますか?
当院の HP には「受入れを記載している。毎日新聞で私が取り上げられた記事を見て、知っている患者さんもいますよ。このコロナ禍でも「先生のところはしっかり対策しているから、コロナも大丈夫だよね」って言う患者さんも多く、患者の減少は初め頃だけで、ほとんどありません。
風評被害についても、どうしても嫌だったら来なくていい、私を理解して信頼関係が築ける患者さんを大切にしたいですね。
Q. HIV 陽性者の診療受入れして良いことは?
陽性者からの心からの「ありがとう」という言葉と陽性者のスケーリングを率先してやってくれる歯科衛生士と仕事ができる喜び、世知辛い話ですが、普通に患者増になる。今でこそ、LGBTQ に対する性差別問題がクローズアップされておますが、陽性者を受入れた時点から、、そう30年前からLGBTQ について、さらには広い意味でも差別という事について考えるきっかけになったという事。何より、志を同じくするTHDN のメンバーに出会えた事が一番です。
Q. HIV 陽性者初診経緯は?
東京都には「エイズ協力歯科医療機関紹介事業」という事業がある。2001年に東京都歯科医師会が東京都から委託事業として、THDNも事業に協力した。主にエイズ拠点病院、協力病院においてリストにより紹介されて来院するケース。さらに陽性者の患者から紹介されたケースもある。―ぷれいす東京などの団体からの紹介。
Q. HIV 陽性者の診療頻度は如何。
リコール患者も含めて月5、6人、治療。
Q. HIV 陽性者の診療拒否または、特別視している歯科医療従業員へ伝えたいこと、意見など
私は普通の町の歯医者で、一人の人間で、自分の生業として歯科医療を誠実に行う、患者さん一人一人を大切にしようと思っているだけです。今では、ライフワークの一つになっている。
「診療拒否」は差別だ「差別」は「区別」から始まる。この患者は HIV 陽性者だと区別できるでしょうか?見た目は全く分からないし、問診でも患者から申告され無ければ我々歯科医には、分かりようもない、区別できないのだ。診療拒否の問題において、歯科医院で申告しなければ治療してもらえる、申告しなかった者勝ちですね。正直、私は申告されなくても歯科治療上問題になる事はないと思っている。でもそれで良いのだろうか?
申告しなかった患者さんから、「先生に申し訳ないな」と思ったことを聴くことも多い。安心安全な歯科医療を築くためには、診療拒否を無くす我々の姿勢も問われていると思う。「陽性者を受入れますよ」と公言することで初めて陽性者は申告することができ、我々も患者さんの全身状態を把握することができるので、安心安全な歯科医療を提供できるようになると思っています。スタンダードプリコーションには聞こえますが、区別できれば陽性者に応じた対応も出来ますね。
20数年前、日本 HIV 歯科医療研究会の講演に初参加した時、演者の英国の歯科開業医に「日本では歯科開業医におけるエイズ患者の診療拒否問題が社会問題化していますが、英国などではどうなのでしょうか?」と質問した。回答は、「私たちは歯科医師であり、歯科医師としてのプライドがあります。診療拒否は有り得ない」との事でした。
このコロナ禍で、コロナ病棟での口腔ケアを求められた時に、「冗談じゃない、あんな危ない所には行きたくないし、衛生士も行かせない」と公言する病院歯科の医長がいました。実際コロナ病棟で感染の恐怖と闘いながら働く医師や看護師がいるのです。どうしたら感染を防げるか、そのためには何か方策はないか、考え続けなければ患者を救えないでしょう。歯科医師の地位向上が疑われるお粗末な話に同業者として情けなさを感じます。
私もまだまだ発展途上です。いろいろな先生方とディスカッションしながら高め合っていきたいと思っています。ご意見をいただくために私のメールアドレス。
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