HIV 陽性者を歯科医師が診るということ ①
「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」研究分担者 宇佐美雄司(国立病院機構 名古屋医療センター歯科口腔外科)さんの小冊子より コピーペー:
東京都の歯科医師の体験記
1. EB歯科医院(東京)
Profile
都内住宅街に祖父が大正時代に産婦人科医院を開設以来、父へ繋がれ、平成10年から私が歯科医院を開業となります。ユニットは3台、常勤スタッフは歯科衛生士1名と摂食嚥下指導の出来る歯科衛生士3名。卒後は医科大学病院の歯科口腔外科に所属していた経験から、有病者の方に全身疾患と口腔疾患の関わりを説明しながらの診療方針でやってきたつもりです。東京都のエイズ協力歯科診療所紹介事業にも立ち上げ当初から参加する。
昭和35年生まれ、子年、かに座、O型、H大学歯学部卒、その後医科大学大学院へ。医学博士。
大学病院時代の診療は、一般的な口腔外科症例から、口腔癌治療後の顎補綴、再建、マイクロサージェリーなど。また、口臭症、舌痛症等の歯科心身症。血液疾患患者の歯科治療。麻酔科院内留学と多くの経験をさせていただいた。10年間の勤務後、実家でもある現在の地に開業しました。
スタッフ紹介
常勤の歯科衛生士は現在勤務歴10年を超え、患者さんと信頼関係のうえ、日々の口腔けあを担ってもらっています。歯科助手も勤続年数9年、院長の治療の癖や流れを熟知、大切な私の右腕です。
非常勤歯科医師は大学時代の同級生で介護、看取りの経験を生かし在宅医療を手伝ってもらっている。非常勤の歯科衛生士は、当医院2階に事務所を構える「口腔栄養ST」のメンバーで在宅口腔ケアのスペシャリストたちである。
Q. 歯科医師になられた理由を教えてください。
初めは医学部希望でしたが、浪人の年の最後に医療系で受験機会のあったのがH大学で、試験会場が自宅から歩いて15分という好立地、祖父の出身地にある大学で土地勘もあった。同じ医療人となるのにそういう道もあるかなと。
当時の医者は、歯科医のことを「歯大工」とばかにしていましたが、うちもそういう空気はあった。しかし入学してビックリ、とっても大切な医療の一分野だと知らされた。環境、先生、先輩、同級生、後輩に恵まれて今に至っている。
Q. HIV 陽性者の最初の歯科治療は、いつ頃?その状況は?そのきっかけは?
HV陽性者の歯科治療を最初に経験したのは、平成元年くらいである。医科大学病院の口腔外科には特殊外来というのがあった。その中に白血病・血友病の患者さんの歯科治療を行う診療日があり、新人たちは必ず経験している。
当時は、薬害エイズが話題になった頃、今とは患者さんの背景が異なり、個人情報がやかましくうるさくなっていく中、ショッキングなニュース性を持つエイズ患者さんの情報は特に厳密に扱われていた。同病院内でもその患者さんがエイズであると知っているは主治医だけ。他科の医師には公には情報伝達もはばまれた。しかし、当時のカルテは各科共通のカルテで全ての検査データが載っていたためエイズを扱う科に通っているもしくは入院している患者さんはそおデータから予想できた。そのため、外科処置の患者さんは肝炎ウイルス感染者に準じ行っていた。
恐らく私が最初に歯科治療をしたエイズの患者さんは小学生の血友病の兄弟だったと思います。齲蝕のレジン充填とかインレーとかの処置だったが、出血のコントロールはされている患者であったので、手袋せずに普通に治療した記憶あり。当時一般歯科治療は素手でやるのが主流でした。お二人は入退院を繰り返す中、私が歯科の主治医としていつも診ていました。薬石効なく二人とも若くして亡くなりましたが、その直後、母親がわざわざ歯科外来を訪れ、生前の治療に対して感謝していただいたのは、今もよく覚えています。この事があって改めて全身疾患を有する患者さんへの歯科治療の意義のようなものを感じた。
Q. HIV 陽性者の最初の診療の感想
特に特別な感想はない。色々な全身疾患の患者さんを診るのが日常だったから。当時は若く、経験も少なかった。外来での後、医局に戻ってから「今日の患者さんは○○○感染症の患者さんだったよ」くらいは言ったかも。
続く
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