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2022年9月10日 (土)

TOPICS 歯科領域における日本語オノマトペの奥深さ ②

続き:

1. 食感を表す日本語オノマトペ

 日本語には、「シャキシャキ」、「フワフワ」、「カリカリ」、「サクサク」など、食感を表すオノマトペが豊富である。TVのグルメ番組では、一言でおいしさを分かりやすく表現するために、オノマトペが頻繫に、かつ効果的に活用されている。

 例えば「シャキシャキ」といえば、瑞々しい新鮮なレタスなどの歯切れの良さが伝わり、空気や水分を含んでいるけれども、表面は硬いイメージであり、刻んだり、かじったりする時の軽快な音を表現している。「ニュルニュル」「ヌルヌル」、「ネバネバ」など、粘りやぬめりの表現は『ニ、ヌ、ネ』で、弾力に関する表現は「ブルンブルン」、「プリプリ」、など『ブ、ㇷ゚』で始まることが多いようである。「パサパサ」、「ネチョネチョ」などは、どちらかといえばまずさを表している。

 これらの様々な食感は、「歯触り」、「歯応え」などの言葉があるように、健康な歯がセンサーとなっている。歯科医師の立場からすれば、おいしくない(まずい)とは、実際の味や食感の悪さに加えて、おいしいものをおいしく感じられない(まずく感じる)歯と口の悪い状態。即ち、本来「シャキシャキ」、「サクサク」とおいしく感じるべき食感を感じ得ない、不健康な歯お口の状態に陥っている可能性を考える。とすれば、子どもにも分かりやすいオノマトペによる問診(例えば「シャキシャキ」、「サクサク」など、おいしく感じるべき食感を感じるか 感じないのか?)を、新たな側面からみた歯と口の健康状態の確認、あるいは診査診断の指標として活用できるのではないだろうか。

 TV番組「チコちゃんに𠮟られる!」(NHK放送、2018/12/29)で、「ハー(ha)」と「フー(fu)」の違いについて、どちらも口を出た瞬間の温度差ないが、「フー」のほうがまわりの空気を巻き込むので、目的の部位では低い温度となり、熱いコーヒーなどを冷ますことになるという解説があった。オノマトペの音の構造上、「ハー(ha)」も「フー(fu)」も語尾の母音は「a」・「u」とどちらも空気を吐いて発語するので空気感を表し、見た目に柔らかさが感じられるオノマトペの「フワフワ(fuwa-fuwa)」、「シュワシュワ(shuwa-shuwa)」などにつながる。一方;歯を食いしばって感じる食感、特に歯触り、歯応えを表すオノマトペの語尾は、「シャキシャキ(shaki-shaki)」、「カリカリ(kari-kari)」のように、語尾が「i音」となる。

 歯を食いしばって我慢するような痛みや食感を表す日本語オノマトペには、歯や口、口唇、舌の動作・状態・感覚などが深く関与しているようである。また「フワトロ」、「モチフワ」、「コリフワ」など、オノマトペは新しい食感を表すことが容易であり、また伝わりやすいがゆえに、時代とともに若者などにSNSで効果的に活用され、新語も増える傾向にある。

 「シズル感」という言葉は、20c.半ばに活躍したアメリカのコンサルタントのエルマー・ホイラー(Elmer Wheeler) が考えた造語で、肉を焼く時の「ジュー」という音が、英語の擬音語で「シズル(sizzle)」と聞こえることに由来する。『ステーキは味で売れるのではなく、肉が焼けるときの音「シズル(sizzle)」や匂いが食欲を刺激するから売れる。お客さんが買いたくなる理由を売り込め』ということになる。

 昨今、YouTube などに頻繫にアップロードされている「ASMR」とは、英語の Autonomous Sensory Meridian Response の頭文字を取ったもので、直訳すると「自律感覚絶頂反応」となる。何かの音をきっかけに、能がリラックス状態になることでストレス発散を導くものである。特に咀嚼音の ASMR を発生させるためには、新鮮な食材が必要不可欠であることはもちろん、やはり「健康な歯」によるリズミカルな咀嚼が大前提となり、きれいな咀嚼音を発生させる健康な歯の維持管理を啓発するべきであう。

 合谷が行った、ラットの舌表面への味覚刺激と触刺激を同時に行い大脳皮質の誘発電位を比べた実験がある。それによると、「おいしさ」のうち食感を含む触覚は、機械受容器で感知し中枢への認識の速さ、伝導速度の速さに加えて、シナプスを介さず三叉神経からダイレクトで脳に伝わるが、味覚は、中枢への認識の遅さ、電動速度の遅さに加えて、シナプスを介した化学的受容器で感知するために、脳に伝わるのが食感より若干遅い、とのことである。この「おいしさ」の脳への情報伝達において食感が有意であることが、食感を表す日本語オノマトペの豊富さに関連する可能性がある。

 イタリア料理で「アルデンテ(al dente)」とは、「歯応えが残る」というパスタの最適な茄で上がり状態の目安とされている。「al」は「~に」、「dente」は「歯」で、「al dente」は直訳すると「歯に」であるが、「歯応えがある状態」という意味で使われている。美食(ガストロノミー、英語:Gastronomy) 大国のイタリアで、その主食であるパスタの最適な茹で方についての用語が、「歯」で感じる食感「アルデンテ」であることは、イタリア人にとっても、「おいしさ」において、「食感」がなにより大切なことが証明されているにちがいない。

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