TOPICS 歯科領域における日本語オノマトペの奥深さ ④
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本来、人間の言語中枢は利き側に関わらず98%の人で左脳に偏在し、更に言葉を話すのに関わるのは左脳の「ブローカ野」、言葉を理解するのは「ウエルニッケ野」として知られている。Kanero らは、オノマトペが脳のどの部分で反応しているかについて、fMRI(functional magnetic resonance imaging:機能的核磁気共鳴画像法) を使った実験から、オノマトペを処理する部位は左脳ではなく、動物の鳴き声などに強く反応する右脳の上側頭溝後部なのではないかと結論付けた。
認知症で言語に障害のある筆者の母親は、オノマトペを駆使すれば、容易に食支援・口腔ケアが可能である。このことこそ、オノマトペは言語野のある左脳ではなく、直感的な右脳で反応していることを証明しており、Kaneroらの研究結果を実証していると考える。赤ちゃんは、言語を獲得する前段階として「バブー」など意味のない喃語を、乳幼児期では「お母さん」のことを「ママ」、「ごはん」のことを「マンマ」などの単純な言語を、さらに「アーン」して、「モグモグ」してのようなオノマトペを比較的早い時期に獲得していく。おそらく「アーン」や「モグモグ」のようなオノマトペを、乳幼児も直感的に反応する右脳で感じている。これらのことからも認知症で言語に障害を有する患者であっても、自身が赤ちゃん、乳幼児の間に右脳に刻み込まれたオノマトペによる感覚、動作を覚えていて、反応してしまうのではないかと推察される。さらに認知症患者にとっては、オノマトペでの指示のほうが、パワーやスピードもアップし、集中力も増すようであるが、これもオノマトペが直感的な右脳ですばやく反応しているからではないかと考えられる。
脳の支配領域が異なることから、言葉の理解が困難な認知症患者においても、オノマトペは比較的容易に理解され、コミュニケーションツールとして、更にリハビリ訓練時の動作指示においても、オノマトペを大いに活用する価値があると考える。コロナ禍において、我々はコミュニケーションの重要性を再認識し、オノマトペの果たす役割のさらなる可能性に気付くとともに、認知症のための取り組みが、実は人生の始まりにあるのではないかという仮説を提案するに至った。
続く
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