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2022年10月27日 (木)

Science 長期療養する要介護高齢者における摂食嚥下機能と口腔内薬剤耐性菌の分布 ⑤

続き:

3. 最期まで口から食べるための歯科的アプローチ

 筆者(吉川)の臨床経験より、要介護高齢者からの受け入れが良好で、リハビリテーションをサポートする医療従事者からの理解と協力も得やすい歯科的アプローチをいくつか紹介する。摂食嚥下機能の評価には口腔機能のみならず咽頭機能の評価も必要。何より口から食べる機能の低下を早期発見・早期対応することこそが重要。誤嚥性肺炎を繰り返すといった、摂食嚥下機能がかなり落ち込んだ状態になると、その改善は著しく困難となる。

1) 舌圧と姿勢調整

 要介護高齢者では体幹の保持が困難となり、頸部の後屈や尖足(足先の変形、甲の部分が伸展しもとに戻らなくなった状態。踵を床んどへつけることができない。)などで、安全に力強く嚥下ができなくなってくる。

 広島県内の長期療養型施設 C において、要介護高齢者の食事時の姿勢が最大舌圧に及ぼす影響について調査(舌圧測定器で検査)。対象は健常聖人43名(男性13名、女性30名、29.0±5.9歳)と要介護高齢者33名(男性14名、女性19名、83.6±7.8歳) とした。ベッド及び車椅子上で、良好な姿勢と不良な姿勢の計 4つ異なる姿勢において舌圧を測定した。その結果、健常成人と要介護高齢者ともにベッドで骨盤に重心を置き、頭部を枕・ヘッドレストにのせ、自重と重力で姿勢が保たれている状態とする「良い姿勢」のほうが、体幹が傾き、仙骨へ体重がかかってしまい、体幹が屈曲位となり頸部が伸展位となった「悪い姿勢」と比較して舌圧が有意に高い値となった。これは車椅子上での姿勢においても同様の結果となった。

 即ち、骨盤の上に体重がのり、足底を平らな面につける「良い姿勢」であれば本来持っている舌圧を十分発揮できていたことを示す。大腿骨や骨盤帯へ筋肉や靭帯などの軟部組織が付着していることから、骨盤帯のアライメントの変化によって下肢が影響を受け、体幹を介して頸部へも影響を及ぼすことが考えられた。要介護高齢者は体幹保持が困難な場合も多く、たとえ食事開始前にベッド・車椅子上へ適切なポジションニングをしてもらったとしても、時間の経過とともに、仙骨に体重がかかる。いわゆる「仙骨座り」になり、頸部もヘッドレストやクッションから位置が崩れてしまうことで、本来、患者自身が持っている舌圧を効率的に発揮できなくなる可能性が十分に考えられる。舌圧が低下すると、食塊の送り込みは困難となり、口から咽頭への陽圧が低下することから口腔や咽頭の残留物も増加し、誤嚥のリスクは高まる。

 従って、我々が食事観察時などに即対応可能なのは、安全に摂取できるような姿勢調整や適切な食事物性の検討等の「環境調査」が主体である。脊柱彎曲や頸部可動域の制限などで、物理的に難しい場面も多々あるが、この姿勢調整は歯科関連職種のみならず、リハビリテーション・看護・介護スタッフらとの相互理解と連携が大切である。

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